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「往きて還らず」 を読む。

昨年急逝された団鬼六の8月新刊(新潮文庫
「特攻隊もの」というと、「きけわだつみの声」を代表に崇高で哀しい物語が多い。でも、無謀な戦争と分かっていながら、招集され死地に赴くにわか兵士の集団が、すべて崇高であるというのは、一面でしかないと思っていた。
 「往きて還らず」は、団鬼六の父上が、戦争末期に召集された時の奇妙な話を小説化したもの。
 父上(小説ではK)の任地は海軍鹿屋航空基地。有名な特攻隊の出撃地。そこで、鄙にも稀な美女八重子と出逢う。彼女は、滝川大尉専用の慰安婦ということだったが、実は、地元兵庫の愛人だった彼女が、滝川恋しさに鹿屋まで来てしまい、そのまま士官用料亭「水泉閣」裏の洋館「すみれ館」に居を構えていた。
 「俺が飛び立ったら、この女をお前の妻にしろ」特攻隊なので、滝川大尉は出撃する。出撃の夜、滝川は、自分の彼女を中村中尉に譲る。そして中村も出撃の夜、また後輩の横沢少尉に彼女の部屋のカギを渡す。
 
 
 どうしても美談だけで語られがちな特攻隊の話。でも現実にはもっと生々しい生の最後の足掻きみたいなものがあったにちがいない。この話は戦争の悲惨さというよりも男と女の哀しさを感じる切ない物語でした。
 後半は、戦後Kが復員してからの大阪での話。ここでは、主人公は息子の団鬼六の学生時代になっている。ただ、前半の鹿屋で知り合った絶世の美女八重子の面影を追うKの生き方がまた哀しい。

 団鬼六というと希代のSM作家としての貌が有名ですが、晩年に書かれた「真剣師小池重明」をはじめとした私小説は何を読んでも面白いです。
 お勧め。

往きて還らず (新潮文庫)

往きて還らず (新潮文庫)