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「烈火の月」 を読む。


 野沢尚著・小学館文庫。


 北野武監督の第1作「その男、凶暴につき」は、元々深作欣二監督によって撮られるはずでした。当時漫才ブームの真っただ中、飛ぶ鳥を落とす勢いのビートたけしの主演映画を取ろうとしたプロデューサー、松竹の奥山和由は、深作監督、脚本担当として野沢尚に選びました。深作監督と野沢尚は幾度となくプレーンストーミングを繰り返す。第1稿が完成したころ、監督は「花の乱」を撮る為一時中断。その1年後再会し再度この映画の為の脚本の練り直しをする。すると、今度は主演のたけしのスケジュールが合わない。深作監督は、一気に撮り上げる人。たけしの予定に合わせ、1週間撮っては1週間休みというスケジュールでは撮れないという。理由はそれだけではなく、東映アクションが下火になっていた時代、何故今アクション映画なのかという思いに結論を出せずに悩んでいた。結局、深作欣二は監督を降りることになり、奥山プロデューサーは、主演のビートたけしを監督に据えることになる。監督・北野武の誕生です。


 撮影が始まってから、野沢尚は映画にタッチしていない。スタッフに聞くと、あれだけ苦労して作った脚本が現場で即興的に直しが入り原形をとどめていない程だという。奥山プロデューサーはたけしを監督に起用した時からそれが分かっていたのかもしれない。ある程度の脚本の改定後、「あとは現場に任せてほしい」と野沢尚に言ったといます。

 
 あれだけ深作監督と苦労して作った脚本が、素人監督に寄ってめちゃくちゃにされるのは、内心忸怩たる思いがあったに違いない。自分の脚本がガタガタにされた映画なんか見たくない。しかし試写会の後、野沢尚は「悔しいがこの映画は傑作だ」と思ったそう。そして映画から13年後の2002年、オリジナル脚本をもとに描かれたのがこの「烈火の月」という小説です。
 

 この逸話を知ってから、「烈火の月」が読みたくて、ずいぶん本屋を探したのですがなかなか無く、amazonで買っちゃおうかと思ってた頃、偶然見つけ即買い。積んでる本を差し置いてよんでしまいました。


 基本的なストーリーは「その男、凶暴につき」と同じですが、新たな登場人物や、伏線、過去などが大きく異なっていて、これはこれで傑作です。映画が静かなバイオレンスだとすれば、小説版は、激しく奥行きのあるサスペンス、といったところでしょうか。


 映画には出てこないキャラクターで、厚生労働省麻薬取締官、通称"マトリ"の女「烏丸瑛子(からすまえいこ)」 が重要な役で配置されています。これも小説版の面白いところ。彼女がいるおかげで、主人公我妻諒介(映画ではビートたけし演)に愛情があることが分かりやすく表現されている。もっとも、映画はそれをたけしは言葉ではなく演技で見せていて、それはそれですごい。

 
 同じ題材でも表現者が異なるとこんなにちがうものなのかと、驚きを禁じ得ない。映画も小説も両方とも好きです。本屋さんで見つけたら是非手にとってみてほしい1冊。そして、どちらが先でも良いけど、映画も観ると更に楽しめます。


烈火の月 (小学館文庫)

烈火の月 (小学館文庫)