まほろ駅前で、何でも屋を営む多田と、高校時代の同級生、行天のコンビが便利屋の仕事を通じて知り合うまほろ市の住人たちの物語。「まほろ駅前多田便利軒」に続く2作目。まほろ市は町田市がモデルとなっている街。多田も変わり者だけど、それに輪をかけて行天がマイペースな男。このどう見ても合わない2人に依頼が舞い込む。
今回は7つの依頼をひとつづつ7話の物語で語られる連作短編の形をとってます。まほろの人たちもすこしづつその背景が語られるので、より物語世界が深くなる。なかでも「思い出の銀幕」で語られる曽根田のばぁちゃんの昔話は切なくて哀しいけど、すごく胸に沁みます。
婆ちゃんは若い頃、「まほろばキネマ」の看板娘だった。許嫁は終戦間際に出征し戻ってこない。許嫁を待つ間に、流れ者の男(行天に似ている)と出逢い恋に落ちる。そして数年後、許嫁がシベリア抑留の後戻ってくる。しかも戻ってきた許嫁は、その関係を許し、あまつさえ男同士も仲良くなるといった奇妙な三角関係が続く。
当時の事を思い出しながら、曽根田のばぁちゃんはこんなことを行天達に話す。
「男ってのは、一人でいるとおとなしいけれど、二人以上集まるととたんに、一緒になって悪だくみをはじめるもんなんだから。」
「女性の場合はどうなんです」
「女は一人で悪いことを考えるものさ。二人以上になると。互いに牽制しあって、おしとやかなふりをする。裏で牙を剥きあいながらね」
…これは怖いけど確かにその通りかもしれない。
ひとしきり、思い出話を語った後、ばあちゃんはこんなことを言います。
「ろまんすも、そのあとの生活も、一生、あの気持ちを知らずに過ごす人もいるだろうが、私は知ってよかったと思っているよ」
後悔のないような生き方というのは難しいし、今これをしたら後悔するか、しなかったら後悔するかなんて、その時は分からない。どんなことがあっても自分の人生は自分で責任を持つしかない。ばあちゃんの言葉は潔いし、年を取って過去を振り返った時に言えたらよいなぁ。
他の6編も哀しい中に考えさせられる台詞が散りばめられていて、まほろの人たちを通じて多田と行天の関係も浮き彫りにされていきます。
シリーズ完結編「まほろ駅前狂騒曲」が最近文庫化されまして既に購入済。続けて読んじゃいます。
- 作者: 三浦しをん
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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