藤原伊織は、広告代理店の電通に勤務しながら創作をはじめ02年から執筆に専念、07年に逝去するまでわずか10冊の長、短編集を世に送り出しました。
「蚊トンボ白鬚の冒険」はその中でも最長、文庫本で上下巻の作品。
他の作品は、すべて読んでいますが、なんともタイトルがふざけていて”食わず嫌い”。買ってから10年近く積んだままにしていました。ちょうど読む本がなかったので、手に取ってみたら、すいません傑作でした。
元陸上選手でインターハイを狙えた達夫は、心臓疾患を患い選手生命を絶たれてしまい、高校を卒業後水道職人になる。ある日仮ジョギングをしていると頭の中に「シラヒゲ」を名乗る蚊トンボ(ガガンボ)が住み着きあy珠の中に話しかけてくる。
シラヒゲは、達夫が忘れている様々な記憶を呼び覚ますことができ、かつ、ほんの数秒達夫の筋肉を支配し増強することができる。
達夫の隣人の黒木が、やくざ者に襲われているところを偶然通りかかった達夫は「シラヒゲ」の力を使って助けてあげると、そのトラブルに巻き込まれて達夫やその周辺の人に危機が迫る。
このお話し、長編ではありますが、3日間の話。しかし内容はとても濃密なハードボイルドでした。
直木賞と江戸川乱歩賞を同時受賞した「テロリストのパラソル」をはじめ、おっさんが主人公の物語の多い中、このお話しは弱冠二十歳の若者。それも食指が伸びなかった理由でもありますが、主人公の達夫もちゃらんぽらんを装いつつも、実にしっかりした考えの持ち主。さらに周りで達夫を助力するやくざの瀬川、そもそもトラブルの原因となった隣人の黒木、元やくざ者で設備屋の親方が、とてもいい。達夫を”運命の男”といって一目惚れした真紀もいい女です。こういったこれまでの藤原作品の中で主人公となっていた人を脇に据えて若者の成長を描くという手法はとても新しい試みでした。
藤原作品は何を読んでも面白い。10冊しかありませんので読んでいない方お勧めです。
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