岩井俊二著・文春文庫
現在公開中の同名映画の、岩井監督自らノベライズしたもの。
映画とは若干展開が異なり、乙坂視点で物語が進んでいきます。なので、読者も乙坂の立場に立つことで、物語に没入することができます。
また、映画では、裕里の息子だった瑛斗が未咲の息子(鮎美の弟)で、母を突然亡くした男の子の成長が挿話されている点が異なっています。
とはいえ、全体的な流れは映画と一緒。
特に、未咲のかつての夫、陽市と乙坂との居酒屋での会話も多く描かれていて、映画を補完する形になっていました。
一方で、映画では、高校時代の未咲、乙坂、裕里の場面や、鮎美と颯香の場面が多かったのですが、乙坂視点の為かなり減っています。ここは映画の方が良かった。大人になる前の女性を美しく描く岩井マジックはやはり映画にはかないません。
小説は、岩井監督が描いている=岩井監督が乙坂に自分の気持ちを仮託していると思いました。なので、小説版は男性向けかも。
映画を観た人にはお勧めです。
解説で、この映画で乙坂の書いた「三咲」という小説は完成作品として存在しているとの事。
できれば、映画に出てきた形と同じ装丁で上梓されないかな。
冒頭で、スマホを壊されて(壊され方が映画と小説では異なっていました)、”文通”という前時代的な手段で進む話は、やっぱり新鮮。
メールやLINEで、手軽にやり取りできるのとは違い、一文字々々丁寧に書いて、切手を貼りポストに投函、相手に届くのに数日かかり、そして相手はそれを読み、返事を書く。それだけで1週間はすぐに経ってしまいます。
書いてる時間、ポストに投函する時のドキドキ感、そして返事を待っている時、自宅の郵便受を毎日確認する感じ。こういうのって今の人には分からないんだろうなぁ。
既読が付くとか、Resが遅いとかいうのと時間の単位が違います。でもこの待つ時間がより愛を深めたりするのです。
手紙、書いてみようかな…。あ、ドキドキするような相手は一緒に住んでたわw
- 作者:俊二, 岩井
- 発売日: 2019/09/03
- メディア: 文庫