短編集。藤原伊織作品は、寡作なこともありほぼすべて読んでいます。私的には作者買いしてまちがいないです。
「ダナエ」は、ギリシャ神話アクシリオスの娘で、ペルセウスの母。
これを題材に描かれたレンブラントの絵が所蔵先のエルミタージュ美術館で硫酸がかけられるという事件が実際に1985年に起きました。同様の事件が主人公の個展で起きるところで物語はスタートします。
犯人は誰なのか?主人公や硫酸をかけられた肖像画の人物との関係は?というとちょっとミステリー地味ていますが、不器用で繊細な主人公がどのように物語の中で生きているのか、それを追いかけるだけで、こころが癒される作品です。
「我れは何物をも喪失せず
また一切を失ひ尽せり。」
主人公の好きな詩ということで、萩原朔太郎の 「乃木坂倶楽部」が出てくる。上の詩はその一部。
さて、すべてを失った主人公に残るものは何か。そんなことを考えながらよんでもよいかもしれません。
併録の「まぼろしの虹」「水母」(くらげって読む)もよい。
藤原伊織の書く主人公は、プロでありながら、汚れることに疲れてドロップアウトするものの、自分の意思をしっかり持って生きている人が多い。ここら辺が共感を持って読み進めてしまう原因。
男女問わず、お勧め。薄い文庫に切ない話3品。お得です。
- 作者: 藤原伊織
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2009/05/08
- メディア: 文庫
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