神林長平著。ハヤカワja文庫。
1994年初刊が中央公論から出て、2000年文庫化されたものがようやくハヤカワで再刊。神林長平作品は、やっぱハヤカワで読むのが一番落ち着きます。
1996年第16回日本SF大賞受賞作。既に18年も経っているのに全く古さを感じない。9つの連作短編からなる小説です。
共通するのは、単なるワードプロセッサ(ワープロ)ではなく、ネットワーク環境の一つの端末として存在する著述支援マシン。今のワープロは叩いた文字をそのまま文章にするけど、この次世代ワープロは、間違った言い回しをすると「そういう表現は間違っている。このように表現することが正しい」と訂正してしまう。
「私を生んだのは姉だった」
姉が私を生むわけが無いので、姉は母と訂正されてしまう。こうして骨抜きになった文章でなければ世間に出すことができなくなった世界。というのが最初の短編。
最初は、なんて便利な機械だろうと思った。何しろ自分の考えている事を判り易く文章にしくれるんだから。「それはこういう意味か」とか「こうした方が意味が通る」とか都度訂正してくれちゃう。でも思ったことをそのまま文字にできないのは、実は辛いのです。
とはいえ、blogを書いていると自分の文章の癖が嫌になることがある。自分でいえば倒置法を多用しがちだったり、重ね言葉も平気でつかってしまったりする。考えの赴くままに書き連ねているので、明らかな間違いではないにせよ、意味の通りにくい文章になる事もしばしば。気がつけば修正することもあります。朝見た時と夕方観るときに文章が変わっている多いと思いますので注意が必要です。
さて、物語は、言葉について深い思索に入っていきます。言葉とは何か。言葉で人を殺す事は可能か。
考えてみれば、言葉って、ひとのこころを左右します。心ない言葉に傷つき、感謝の言葉に涙する。かように精神に多大な影響を及ぼす言葉。更に激しい言葉であれば、言葉で人を殺すことも可能かも。。
本は、言葉を定着させたものだから、ひとの心を揺さぶります。心温まる小説を読めば涙するし、官能小説を読めばギンギンに…いやあのその…(^-^;)。
言葉のちから、言葉の魅力を小説という形で思索した短編集。
うーんと、一応SF作品なので、そのセンスオブワンダーが理解できる人にはお勧めです。
- 作者: 神林長平
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2011/06/10
- メディア: 文庫
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