1949(昭和24年)松竹・小津安二郎監督。
父の日に相応しい作品ということで。
古い作品なので最近の刺激の多い作品に慣れている人には、物足りなさを感じると思いますが、娘を持つ父にとっては、堪らなく切ない作品であります。
物語は、戦後間もない北鎌倉に住んでいる大学教授の曾宮周吉(笠智衆)は、妻を早くに亡くし27歳の一人娘・紀子(原節子)と2人で暮らしている。今であれば、27歳なんてまだ若いけど、昔の事。婚期を逃し行き遅れになってしまう事を危惧している父は、ある作戦を思いつく。それは、自分が後妻をもらう事にして肩の荷を下ろしてあげれば、娘は結婚していくに違いないと。でも、娘は今の生活に満足しており、彼女の意志で結婚したくなかった。
おせっかいな叔母さん(杉村春子)が紀子にお見合いを勧める。そして紀子は結婚を決意して、父と娘は親子水入らずで京都に独身最後の旅行に行きます。旅行最後の夜、娘は父に本心を打ち明けます。
紀子「あたし…」
周吉「うん?」
紀子「このままお父さんといたいの」
紀子「どこにも行きたくないの。お父さんと こうして一緒にいるだけでいいの。それだけで私、愉しいの」
紀子「お嫁に行ったってこれ以上の愉しさはないと思うの。このままでいいの 」
周吉「だけどお前 そんなこと言ったって」
紀子「いいえいいの お父さん奥さんおもらいになったっていいのよ。やっぱり私 お父さんの傍にいたいの。お父さんが好きなの」
紀子「お父さんと こうしていることがあたしには一番幸せなの。ねぇ お父さん。お願い、このままにさせといて。お嫁に行ったってこれ以上の幸せがあるとは、あたしは思えないの」
周吉「だけど それは違う。そんなもんじゃないさ。お父さんは もう56だ。お父さんの人生は、もう終わりに近いんだよ。だけどお前たちはこれからだ。これからようやく新しい人生が始まるんだよ。つまり、佐竹君と二人で作り上げて行くんだよ。お父さんには関係のないことなんだよ。それが人間生活の歴史の順序というものなんだよ。そりゃあ 結婚したって始めから幸せじゃないかもしれないさ。結婚していきなり幸せになれると思う考えが 寧ろ間違ってるだよ。幸せは待っているもんじゃなくって やっぱり 自分たちで作り出すもんだよ。結婚することが幸せなんじゃない。新しい夫婦が新しいひとつの人生を作り上げてゆくことに幸せがあるんだよ。1年掛かるか 2年掛かるか 5年先か 10年先か。勤めて初めて幸せが生まれるんだよ。それでこそ 初めて 本当の夫婦になれるんだよ。お前のお母さんだって 初めから幸せじゃなかったんだ。長い間には色んなことがあった。台所の隅っこで泣いているのを お父さん幾度も見たことがある。でもお母さん よく辛抱してくれたんだよ。お互いに信頼するんだ。お互いに愛情を持つんだ。お前がこれまでお父さんに持っててくれていたような温ったかい心 今度は佐竹君に持つんだよ。いいね、そこに お前の本当に新しい幸せが生まれてくるんだよ、分かってくれるね」
そして、娘を嫁に出した日。ひとり北鎌倉に自宅に帰る周吉。溜息をつき、淋しそうにリンゴの皮を剥く。繋がっていた皮が床に落ち、肩を落し俯いている父。ラスト。シナリオでは、父の慟哭がラストカットだったらしいけど、それまで小津監督の言う通りに演技してきた笠智衆が最初で最後、「その演技はできません」と言った為、改変されたとのこと。
再婚するという嘘までついて娘を嫁がせた父。一人になってしまう父を最後まで心配する娘。今となってはそんな父娘関係があるとは思えませんが、どこかに父娘関係はこうあって欲しいと願う気持ちがあったりします。
これ観てる時にちょうど娘が部活から帰ってきて「一緒に観ようよ〜」と言ったらカミさんが口を挟み「幻想よ、幻想」と言われてしまいました。もっとも娘も私の言う事なんか耳も貸しません。哀しい…。
「ドラえもん のび太の結婚前夜」に涙した人なら、この良さを判ってもらえるかも。ただ古い映画を観慣れない人には退屈な映画かもしれません。日本人なら是非一度観て欲しい一作です。
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