初めてビートたけしが監督をやると聞いた時、結局シャレなんでしょ、と思ったら大間違い。元々映画好きだというビートたけしは、北野武という本名で深作欣二が降りた脚本に真面目に取り組んだのが第1回監督作品の「その男、凶暴につき」。
3作目「あの夏、一番静かな海」以降は久石譲がキタノ映画の音楽を手掛けますが、この作品の音楽は、俳優・声優の久米明の息子の久米大作が手掛けています。エリック・サティのグノシェンヌを大胆にアレンジして、印象深い「我妻のテーマ」に仕上げています。
このサントラ昔から欲しかったんですけど、結局手に入れられず幾星霜。その間、サティのアルバムを何枚か買いましたが、このサントラアレンジのインパクトはない。勿論サティのグノシェンヌも嫌いじゃないんですけど。
この映画で、乱暴で無軌道な刑事・我妻を武自ら主演するのですが、その演技は、「THE MANZAI」のビートたけしとは明らかに異なっていました。徹底的に抑えた不気味な演技で、観る者の眼を惹きつけずにはおれません。そしてラストシーンに至るのですが、そこで、はたと気がつくのです。本当の悪人はいったい誰だったのか。我妻は言葉が足りず、すぐに手を出してしまったり、上役を上役とも思わない社会性の欠片もないある意味タイトル通り凶暴な男ですが、彼の行動はあくまでもまっすぐで、それを正義と言えば確かにそうかもしれないと思うのです。そして、警察関係者も含めた周りの人間すべてが悪人に見えてきます。
その哀しさをメインテーマや我妻のテーマ(グノシェヌ1番)が引き立ててくれます。
この次の「3−4x10月」で脚本も手がける北野監督は、BGMを使いませんでした。音楽に助けられることなく映像勝負のこの作品も実は結構好きです。
処女作に作家の全てがあるとも言いますが、この2作には北野監督の全てが詰まっているような気がしてならないのです。
というわけで、このサントラを会社の通勤中に聴いていると、深い悲しみを抱えた我妻になった気分になるのです…。
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