三浦しをん著・文春文庫
カミさんから勧められて読む。町田が舞台ということで気にはなっていたんですけど未読で、それ以外にも読む本いっぱいあったんで後回しにしていました。カミさんが、「持ってるよ」ってことでしたので、DVDを観る前に読んでおこうってことで読み始めたら結構面白かったのであっという間に読めました。
主人公は、まほろ駅前で便利屋を営んでいる多田と、多田の高校の同級生だった行天。多田が仕事で訪れた家の近くで二人は偶然再会し、行くあてのなかった行天は、多田の元に居候となり便利屋の仕事を手伝うことになる。
多田も変わり者だけど、行天は更に変人。来る客も便利屋の周りの人々も変わり者だけど、みんな明るく一生懸命生きているところが心地よい。そして出てくるのは心に沁みる名言が多い。
親に愛されていない子どもが、大人の言うことなんか信じられないとでも言う風に「生きていればやり直せるみたいなことを言うんじゃないんでしょうね」と行天に言う。そうすると行天はこともなげに「やり直せるなんてことはほとんどない」と言い切る。
そうなんだよね。間違ったり、失敗をしたっていいじゃないか、いつだってやり直せるという人は多いけど、ゲームじゃないんだからやり直しなんてきくもんじゃない。失敗をしたという現実が既にあって、その上での成功はあるかも知れない。でもそれは、一発で成功したものとはやっぱり違うんです。希望を与える為に楽観的に諭すよりも、しっかりと現実を教えてそれでも挑戦することに意義があることを判ってもらうこと。それが真の意味での教育だと思う。
行天の別れた奥さん(これも単に離婚した妻というわけではない)と多田の会話で、彼女はこんなことを言う。
「愛情というのは与えるものじゃなくて、"愛したいという気持ちを相手から貰うもの"だという事が判りました。」
愛情を与えることは、実はたやすい。でも愛してもらうっていうのは、自分が"愛される"人にならないといけない。与える愛は断片的だけど、愛されようと思ったら自分の生活そのものが人から愛されるようにならないといけない。そう思ってもらえる人を如何に多く持っているかがその人の魅力なんだと思う。
一見奇人変人の住む"まほろ市"の住民たちは、悩みながらそれでも一生懸命生きている。人って生きていると他人には判らないいろんな経験をする。傷ついたり傷つけたりしながら、いろんな思いが人を形作る。
不思議な雰囲気の作品ですが、お勧めです。
- 作者: 三浦しをん
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2009/01/09
- メディア: 文庫
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