田宮二郎主演の「白い巨塔」は、まだ小さかったこともあり、原作を意識せずに観ていました。山崎豊子を意識したのは、NHKのドラマ「大地の子」からです。中国残留孤児の話で、陸一心が、助けてくれた中国人陸徳志夫妻に初めて「ぱぁぱ、まぁま」と呼びかけるシーンで涙し、生き別れの妹(永井真理子)と再会するシーンで涙。そして、日本の実父(仲代達矢)との共同作業で製鉄所を建設する物語は、中国残留孤児の悲劇とともに素晴らしいドラマでした。
「大地の子」の原作を読み山崎豊子にハマり、「白い巨塔」「華麗なる一族」そして「沈まぬ太陽」と骨太な物語を読んできました。象牙の塔と呼ばれていた大学病院や銀行の合併、そして国策航空会社の暗部を描いたこれらの作品は綿密な取材をもとに描かれており、毎回フィクションかノンフィクションかの論争が起こるのが常となっていました。確かに小説として仕上げられた作品は、明確に正義と悪が描写されている為、悪者に描かれてひとにとってはたまったもんではなかったでしょう。しかし、フィクションと考えればドラマとして本当によくできていたし、事実以上の重みを持って、主人公の正義が描かれていました。
山崎豊子を読むスタンスとしては、あくまでもフィクションであるという事を念頭に置かないと危険だと思うようになったのは、「沈まぬ太陽」を読んだ時でした。登場人物には明確にモデルとなった人がおり、しかも確かに一面を見れば主人公の行動は正義ですが、実際に調べてみると小説の中の主人公の動きはノンフィクションかというと決してそうではないということでした。
事実の中に虚構をさりげなく埋め込む。小説の作劇としてはありがちですが、これが余りに迫真に迫るドラマだった為に、山崎豊子の評価は二分されます。
物語に慣れていない読者によって、曲解をされるのは哀しい。しかし存命中の人が多くいる事件、事故を小説化するならそこら辺は心遣いするべきだとも思います。
私はといえば、山崎豊子作品を読んだ際、一度通して読んだ後、モデルとなった事件について調べる癖を身に付ける事が出来た。これって、ネットが発達して簡単に調べたりすることができるようになったからとも言えます。
そういう意味で、今だからこそ読むべき作品が山崎豊子の作品だと思うのです。
ただ、齢88歳。いつまでも作品を書いて欲しいと思う反面、そろそろ第2第3の山崎豊子が出ても良い頃合いかもしれません。
たくさんの名作をありがとうございました。
まだ読んでいない作品があります。「運命の人」は買って有るけどまだ読んでない…。今回の訃報を機に過去の作品を含めて読みなおしをしたいと思います。