つい最近DVDで観て、紀伊国屋で偶然売っていた小説版を即購入。発売されていたの知らなかったんです。
映画版は主人公の孝雄と雪野だけに焦点を当てており、その他の登場人物については、多くを語らないどころかそのバックボーンは一切明らかにされません。群像劇も嫌いじゃありませんが、限られた時間の中でより効果的な時間の使い方を考えた時、一人乃至二人に絞って、主観視点で語る方が観ている方もより感情移入しやすい。
この小説版は映画の行間を埋める為に書かれたものです。映画では語りきれなかった、映画ではセリフすら与えられなかった登場人物たちの行動、感情が詳らかになり、物語に奥行きを持たせている。
「言の葉の庭」というタイトルも、映画版では二首の短歌だけだったのに対し、小説版は全10章(話)それぞれに短歌が添えられているので、よりタイトルに近い印象。
さらに、映画では語られなかった後日談まであり、映画版が縦横2次元であるとすればそこに高さと時間軸の2本が加わったような作品でした。
この本は、まず映画版を先に観ることをお勧めします。小説版を読んだ後では、映画版のストーリー展開に恐らく物足りなさを感じてしまいます。もちろん新海作品ですから、映像表現としては相変わらず素晴らしい出来なのですが、小説を読むことで読者の頭の中に描くイマジネーションは、フィルム(じゃないけど)に固定化された"画"よりも明らかに上です。
あとがきで著者は「映像の方が優れている描写もある」といっていますが、私的には文字表現に優る描写はないと思います。強いて言うならば、「文字を追う事によって脳内再生された映像」には優るものはないと思いますが。
映画版を見た人、是非この小説版は読んで欲しいです。