絲山秋子著・文春文庫
この人の作品は、3冊目。表題作がデビュー作らしい(第96回文學界新人賞)。それと乗馬の障害競技中に落馬、愛馬を殺処分されてしまいそのトラウマを抱えつつまわりの人に支えられて再生していく物語「第七障害」の2編。
表題作もデビュー作とは思えないビビットな物語でしたが、2作目の「第七障害」が特に良かった。
乗馬を趣味とする予備校講師順子がどんどん乗馬にのめり込み、気が憑くと国体を目指すくらいになっていて、そんな競技の最中、第七障害を越えられず転倒落馬。馬は前足を骨折し、自分は救急車で運ばれる。自分は骨折程度で済んだけど、馬は予後不良ということで殺処分に。同じ頃付き合っていた男とも別れ、その男の妹とルームシェアで東京で暮らすことになる。東京で年下のかつての乗馬仲間とあう。彼は順子の事が好きで、傷ついた順子を労わる。ある日、事情があって彼の家に泊まる順子。順子は「一緒に寝てもいい」というが、彼はこう答える。
「順子さん俺ね」「大事にしたいのよ、わかる?」
「うん」
「今、一緒に寝ても順子さん我慢するだけだろ。俺だって空しいじゃん。でもそのうちきっと変わるからよ。順子さんが<お願いしてして>っていうまでしねえよ」
こういうことを好きな女性を前にいえる男がどれくらいるでしょう。この後、こう続きます。
「ねぇ言っていい?」「あたしはやめといた方がいいよ」
「なぜ?」
「もっと若い子にしなさい」
「年なんか関係ねえだろ」
「なんか、違うかもしんないじゃん。思ってた私じゃないかも」
「そりゃお互いそうじゃねえの?違うと思ったことがあって、それを納得したり話し合ったりしながらつきあうもんじゃねえの?」
この歳下の男、篤くんというのですが、とても良い男です。こういう事を自分の欲望を押さえてさらりと言える若い男はまずいませんね。私ぐらいの年になると、色々と欲もなくなってくるので言えちゃったりしますけどw
本屋さんに並ぶ沢山の本の中から選んだ一冊、その中に琴線に触れるような一行、一言をみつけた時に本を読んでいて嬉しいな、小説っていいよなって思う。
この作品がそんな作品でした。
年齢的に20代後半から30代くらいまでの、恋や仕事や諸々の生活にヒントが欲しいなっていう人にお勧めです。
- 作者: 絲山秋子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/05
- メディア: 文庫
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