鷺沢 萠著・新潮文庫
鷺沢さんが亡くなって11回目の葉桜の季節になった。昨日が鷺沢さんの命日。
2004年自死という最も彼女にふさわしくない死に方。今更ながら何故?という疑問がぬぐいきれない。
この時期は、読んでいる本を休んで「葉桜の日」を読むようにしています。
「人の生きていく方法や道はさまざまで、どれが最高ということはない。ただ、自分のめいっぱいに真実(ほんとう)でいきていればいい。」
育ての母である志賀さんの口癖で、色々な場面でいうけど、主人公はこれを常に自分に向けていっているものだと持っている。
「自分はいったい何者か」「自分はどこに来てどこに向かおうとしているのか」若い時に一度や二度、そういうことを考える事がある。でも結論なんか見えなくて、気が付くと時がたっている。そしてそんなことどーでもよくなってしまう。
「葉桜の日」を初めて読んだのは、20年くらい前で結婚をした数年後でした。子どももできて会社も転職をしてさすがに人生固まった感じがした頃。大きく広がっていた可能性の扇が、パタリパタリと閉じていく。そんな音を聴いて、ちょっとした焦りともうどこにも行けない哀しみを感じていました。志賀さんの言葉も「そういうもんかな?」と思う一方で、「そういうもんだよなぁ」と判り始めていました。
今読み返してみると志賀さんの言葉が良く判ります。そういうもんです。適当に誤魔化したりすることはあるけど、”自分のめいっぱいのほんとう”で生きてきたような気がします。もっともそういう生き方しかできない不器用な人間だということでもありますけど。
主人公はひとり呟きます。「上手く行くことなんてなかなかないね」
そして高みから外を見渡す。
上野の桜も全部散って、そこここの枝からは新しい葉が出はじめている。葉は枝いっぱいに繁ってやがて散る。それでも春になれば裸木はまた新しい花を咲かせるものだ。
桜の花は散るけど、葉桜の日を過ぎて、また春になれば満開の桜の季節がやってくる。人生はその繰り返し。

- 作者: 鷺沢萠
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1993/10
- メディア: 文庫
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