百田尚樹著・幻冬舎文庫
乖離性同一性障害(多重人格)の中の一人との恋愛は成立するのか。
言ってしまえばそれだけの話なのですが、多重人格という疾患の説明と多重人格キャラクター描き方が上手く、ストーリーを邪魔せず、逆に興味をもって読み進められる。百田尚樹さんの筆力に負うところが大きい。
外側は1つ(同じ)だけど中身の人格が完璧に分かれていて別個の人格だというのが、多重人格といわれるものです。勿論そういう人に会ったことはなく、大ヒットしたノンフィクション「24人のビリー・ミリガン」(ダニエル・キイス著)も読みましたので、基礎的な知識はもっていますが、専ら知識としてしっているだけ。ですので、正直自分の中ではまだ信じられていない状態ではあります。
ただ、物語のテーマとしては面白く、今回の”多重人格者の恋愛”という切り口はなかなか斬新です。
多重人格者の中の一人を好きになった。一方で同じ身体にある他の人は鳥肌が立つ程嫌い。人格の交代がいつ行われるかわからない、もしかしたら嫌いな人格が好きな人格を演じているかもしれない。そんな状況で、キスやセックスができるだろうか。うーむ、考えただけでも怖い。
でも一方で好きになった人格とは、手をつなぎたい、キスをしたいと思う。外見は同じなのに。ということは、キスやセックスは身体でするものではなくて心でするものだということになる。今回のお話は、男性が多重人格者なので、女性的にはそうなのですかね。でもまぁ男性もいくら外見がよくても先に進みたくないって思うこともあるから、一概にはいえないか。
このお話は、多重人格者を通して、恋愛する女性の気持ちの変化もまた見どころのひとつだったりします。主人公の聡子はいたって普通の子なし既婚者です。これまでモテモテだった事もなさそうないたってまじめな感じです。そんな女性が恋愛をし相手に思慕を募らせるという状況はなかなか興味深かったです。
多重人格についての知識も得られる恋愛小説、といったところですが面白く読めます。
- 作者: 百田尚樹
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2014/04/24
- メディア: 文庫
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