ある意味、ドラマティックな物語とは一線を画す、そういう意味では珍しいお話しかもしれません。
一流大学を卒業して、望んだ証券会社に入り、社内留学制度で海外留学、MBA取得。希望の地ニューヨークで証券マンとしてバリバリ働く。絵にかいたようなエリートサラリーマン。再会した初恋の人と結婚して1児の父に。しかし、海外生活に慣れていない妻は、身体を壊して子どもを連れて帰国しそのまま離婚。経営破綻で敗戦処理をして帰国した1年後、勤務場所だったワールドトレードセンターが崩壊した。帰国し、損保会社に再就職するも地方支店での代理店リストラが主な仕事。鬱になりまた会社を辞めて、地方のFラン大学の講師に。大学での授業と並行して生活指導や補習授業に明け暮れる毎日。現代的な学生の大麻騒ぎやAVスカウトを未然に防ぐなど、大学講師とは名ばかりの孤軍奮闘ぶり。学長選挙を巡る派閥争いに巻き込まれそうになったり、親の介護や息子の受験。そして一回り以上離れた同僚との淡い恋。大きな事件が起きるわけでもなく、ひとつひとつの山は誰もが経験するようなことばかり。主人公の高澤は私の5歳くらい上のせいか、こういう人生は他人事ではなくページを繰る手が止まりませんでした。
篠田節子は女性が主人公の話が多い印象ですが、この作品は男性が主人公。「銀婚式」というタイトルも、ちょっとひねりが効いていてよかった。
人生は何がハッピーエンドかわからない。流転する高澤の人生も、一つ間違えたら転落していくこともあり得た。本人の生真面目さ、感情的にならず何事にも真面目に取り組む姿勢も奏功したのかもしれない。自分の生き方だけでなく、友人にも助けられた。転落しそうになる学生も助けた。何事もないように生活をしている人にもいろんな人生がある。それをどう越えてきたかで、人生の厚みが生まれる。
強いていえば小津安二郎の映画のような物語。決して派手ではないけどそこには間違いなく男の人生がありました。
篠田節子って本当に巧い。結構読んでいますけど、篠田節子に外れなし。

- 作者: 篠田節子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2016/12/23
- メディア: 文庫
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