日々雑感っ(気概だけ…)on Hatena Blog

思ったこと、思っていること。読んだ本、観た映画、TV。聴いた音楽…。会社でのこと、家族のこと、自分のこと。日々のうつろいを定着させています。はてなダイアリー開始は2003年、2006年4月から毎日更新継続中。2017年6月8日「はてなblog」アカウント取得、2019年1月「はてなダイアリー」から正式移行しました。アクセスカウンター2019年01月26日まではpv(2310365)です。

わたくしのすべてのさいわいをかけてねがう。

 うちのカミさんは「ビンボー臭くてやだ」とかいいますが、わたしは宮沢賢治の詩好きです。
 タイトルは「永訣の朝」の最後の一節。「永訣の朝」は中学校の教科書にも載っていて、賢治の詩の中で好きな詩のひとつ。最愛の妹の"トシ"が亡くなった時の様子を詩にした抒情詩です。

「永訣の朝」

けふのうちに
とほくへいってしまふわたくしのいもうとよ
みぞれがふっておもてはへんにあかるいのだ
(あめゆじゅとてちてけんじゃ)
うすあかくいっさう陰惨いんさんな雲から
みぞれはびちょびちょふってくる
(あめゆじゅとてちてけんじゃ)
青い蓴菜のもやうのついた
これらふたつのかけた陶椀に
おまへがたべるあめゆきをとらうとして
わたくしはまがったてっぽうだまのやうに
このくらいみぞれのなかに飛びだした
   (あめゆじゅとてちてけんじゃ)
蒼鉛いろの暗い雲から
みぞれはびちょびちょ沈んでくる
ああとし子
死ぬといふいまごろになって
わたくしをいっしゃうあかるくするために
こんなさっぱりした雪のひとわんを
おまへはわたくしにたのんだのだ
ありがたうわたくしのけなげないもうとよ
わたくしもまっすぐにすすんでいくから
   (あめゆじゅとてちてけんじゃ)
はげしいはげしい熱やあえぎのあひだから
おまへはわたくしにたのんだのだ
 銀河や太陽、気圏などとよばれたせかいの
そらからおちた雪のさいごのひとわんを……
…ふたきれのみかげせきざいに
みぞれはさびしくたまってゐる
わたくしはそのうへにあぶなくたち
雪と水とのまっしろな二相系をたもち
すきとほるつめたい雫にみちた
このつややかな松のえだから
わたくしのやさしいいもうとの
さいごのたべものをもらっていかう
わたしたちがいっしょにそだってきたあひだ
みなれたちゃわんのこの藍のもやうにも
もうけふおまへはわかれてしまふ
(Ora Orade Shitori egumo)
ほんたうにけふおまへはわかれてしまふ
あああのとざされた病室の
くらいびゃうぶやかやのなかに
やさしくあをじろく燃えてゐる
わたくしのけなげないもうとよ
この雪はどこをえらばうにも
あんまりどこもまっしろなのだ
あんなおそろしいみだれたそらから
このうつくしい雪がきたのだ
   (うまれでくるたて
    こんどはこたにわりやのごとばかりで
    くるしまなあよにうまれてくる)
おまへがたべるこのふたわんのゆきに
わたくしはいまこころからいのる
どうかこれが天上のアイスクリームになって
おまへとみんなとに聖い資糧をもたらすやうに
わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ


 冬の夜、妹の死に際して、枕元で看取る賢治。

4回繰り返されるトシの言葉「あめゆじゅとてちてけんじゃ」
学校では「雨雪を取ってきてください」という風に説明します。岩手県花巻地方の方言で、「~して下さい」というのを「~してけろじゃ」→「~してけ(ん)じゃ」と言うといわれています。
なので、「あめゆじゅとてちてけんじゃ」(あめゆじゅ)は雨雪で、シャーベット状になった雪。「あめゆきをとってきてくれない?」という意味だというのですが、詩人の山本太郎さんは、「けんじゃ」の部分を「賢治ゃ(賢治兄さん)」と読むと注釈している。私もその考えに共感しており、私的に解釈すると、「雨雪を取ってきて…賢治兄さん…」という方が、よりトシの言葉に近く、賢治の心情に近いような気がずっとしていました。
 ただトシが賢治の事を”賢治ゃ"と言っていたという記録がないので、花巻方言である、という方が主流のようですが。
「Ora Orade Shitori egumo(おら、おらで、しとりえぐも)」も「私、わたし、一人で逝くから。」というトシ。これも何故ローマ字?と思いましたが、音に敏感な宮澤賢治が、言葉の意味というよりも音を表現したためであろうと。
 (うまれでくるたて
    こんどはこたにわりやのごとばかりで
    くるしまなあよにうまれてくる)
これはトシの言葉であると同時に、賢治自身の想いであろうと思います。
”わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ”は、妹の死出が穏やかであることをのみ願っているのではなくて、「おまえとみんなとに」とあるから、世界中の哀しみを癒すことを自分の幸せを犠牲にしても願うという事なんだよなぁ。
優しいなぁ。


 トシの死に際しては、「無声慟哭」「松の針」という詩を詠んでいます。これも「永訣の朝」同様の清冽な印象の詩で、冬の夜とてもこころに沁みてきます。


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