吉村 萬壱著・ ハヤカワ文庫JA
テロが横行し、テロを実行していると喧伝される組織?”テロリン”に対しての憎悪とテロリンへの憎悪を掻き立て、る政府広報が常時流れている。テロリンと思えるものは民衆が寄ってたかって殺してしまうが、警察は殆ど介入しない。テロによって世界は機能マヒとなり、ディストピア状態という舞台。テロリンの本拠地は大陸にあって、殲滅の為の志願兵を常時募集している。
主人公、椹木(さわらぎ)の妻子はテロによって不治の傷を負っている。日雇い労働者として暮らしているが、生活は困窮、愛人の寛子に売春をさせて上前を撥ね、妻子の薬代に充てている。椹木は軍への志願を考えているがなかなか決心がつかない。
ある日、家族でデパートに行った椹木はテロに巻き込まれ、妻子を失う。そこで志願を決意するところまでが第1章。
第2章は、大陸に渡り、テロリンの本拠地である”地区(ゾーン)”を目指す話。大陸に渡ると、軍律で統制され進軍していると思いきや、”神充(しんじゅう)”とよばれる獣が横行し、軍は壊滅状態。それぞれがそれぞれの意思で大陸のどこかにある「地区」を目指すが、圧倒的に強い神充になすすべはない…。
偶然手に取って、あらすじもざっとしか読まずに買って積んであった本。500頁超の長編で、どうやらバイオレンスっぽい感じなので元気な時じゃないと読めないと思いほったらかしていたんですが、平成も終わるので満を持して読み始めました。
第1章のテロが横行し無政府状態に近い世界。テロの本拠地を叩くべく志願兵として大陸に渡る登場人物たちを描く第2章。そしてその後を描く第3章。人間の醜さをこれでもかというほど見せつけられ、吐き気すら憶えるが、過去の戦争で南方に従軍した人は同じような地獄をみていたんだと思う。
第1章の世界は最悪な世界でしたが、第2章の志願兵として赴いた先はさらなる地獄。第3章で復員してきた世界は、第1章の世界となんら変わりはないのに、とてもいい世界に見える。
幸せとか不幸せって相対的なものであると同時に、絶対的なものという二律背反。
世間に流されるのは、生き方として楽。ただ誰もが反骨精神をもっていて、その難しいバランスの上でみんな生きているんだと思う。
流される比率が高いと、平凡だったり、引き上げてくれる存在がいれば順風満帆だったりする。一方で風に抗って我が道を行けば、自分は満足だけど、周りは不幸だったり、収入に結びつかず生活は大変だったりする。
今の生活に不満な点は誰しも持っている。でもいまのこの場所よりもいいか悪いかなんてわからない。
バイオレンスな世界があまり得意でない私としては、万人にお勧めできる作品ではないけど、自分の立ち位置を再確認できたという意味では、面白い作品でした。
- 作者: 吉村萬壱
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/04/01
- メディア: 文庫
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