北森鴻著・光文社文庫
改装中の新宿中央公園で殺されたのは、脳死臨調でリーダー的存在だった吉井教授だった。
かつて吉井の研究室におり、今は医学系のフリーライターをしている相馬は、教授殺しに疑問を持ち、2年前にお名軸研究室を去った九条の行方を追う。九条は、新宿でホームレスになっていて、”トウト”と呼ばれる少女と一緒に暮らしていた。教授を殺したのは誰か、なぜ教授は殺されなければならなかったのか。
脳死判定を巡る問題については、脳死=人の死として、臓器移植の推進の課題を一気に解決することができる。
臓器移植をしないと生きられない多くの人にとっては、脳死判定を受けた死体からの移植は藁にもすがる思いに違いありません。一方で、心停止した身内の死を受け入れ、移植用に提供するのは家族として簡単に割り切れるものではない。脳死ならば…とも思うけど、では、人の死というのは何を持って定義するのか。
半世紀生きていれば、祖父母の死から始まり、親の死、知人友人の死、といくつかの死に立ち会っています。
こんなことを言うと人格否定されそうですけど、亡骸との対面では不思議と悲しい想いに囚われることはありませんでした。もちろん、もう話しができないことの悲しさはあるのですが、もうここにいないな…という感覚。肉体は”物体”であって、お付き合いしていたのは、その身体にあった”精神体”だったという想い。
なので、自分の身体にもさほど執着はありません。心停止でも脳死でも使えなくなったらそれが必要な人にあげてしまって構いませんので、「臓器提供意思カード」に自署し、カミさんにも署名してもらい持っています。とはいえ、結構ガタが来ていますからあんまし着けえるところはないと思いますけど(^^;)。
ミステリーの体裁はとっていますが、生とは何か、死とは何かについて考えさせられる物語でした。
それにしても、北森鴻という人の引き出しは、いったいいくつあったのか。美術、骨董、古代史、料理、そして医療など、どれも超一流の物語。
何度も書いていますが、早逝が悔やまれます。
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- 作者:北森 鴻
- 発売日: 2008/11/11
- メディア: 文庫