朔 立木著 光文社文庫
昨年周防正行監督による映画化作品の原作です。オリジナル作品の多い周防監督が、「ファンシイダンス」以来の原作付き映画ということで、まずは原作を読んでみる事にしました。薄い本なのに、更に2本入っているという。「終の信託」は前半に載ってる140頁の短編。
呼吸器系の医師折井綾乃が、検察庁に呼ばれるところから始まる。彼女は、3年前に長年担当していた患者、江木とある約束をし安楽死をさせる。それが問題となり呼び出しを受けた。以降は、検事とのやりとりの中で彼女が撮った行動についてフラッシュバックしながら進められていきます。
尊厳死を扱うことで世間の注目を浴び、出世を目論む検事は誘導尋問で綾乃に自供を促す。そのやり方が、卑劣というか、結局こんなもんなんだろうと思うと空恐ろしい。
現場にいない人が、真実にたどり着こうとする時、骨格を押える事は確かに重要だと思うけど、骨格だけで全てが分かるはずもない。人間だって骨だけで生きているわけではなくて、内臓や筋肉や贅肉さえも含めて、その人を形作る。このお話に出てくる検事は、骨組みだけで綾乃を立件しようとする。綾乃と江木の信頼関係は描かれているものの、検事のあくが強すぎてかすんでしまう。これは映画を見ないと…。
もう1本「よっくんは今」は、結納までしようとしていた彼、よっくんを刺殺したマリが、取り調べを受ける話。「終の信託」同様、"愛する人を殺めた"話ですが、こちらの方が闇が深い。
一方は信託を受けた尊厳死、一方は全てを受け入れてくれた彼を愛するが故の殺人。
私的には、「終の信託」の方がまだ理解できるけど、それでも人が人の"終の信託"を受ける事はどんな人であろうとしてはいけない事だと思う。
私は無神論者ですけど、自分の生死を決めるのは、自分ですらなく"天"だと思うのです。