佐藤健志著・VNC
一瞬タイトル的に、「シン・ゴジラ」関連と思ってしまいますが、初版が2013年ですので「シン・ゴジラ」の事について書かれた本ではありません。中身は主に2005、07、08年に「正論」に掲載された社会評論に、序章、終章を2013年出版時に書き下ろしされています。
これまで『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』('92)、『さらば愛しきゴジラよ』('93)、『幻滅の時代の夜明け』 ('92)を読んでいて、アニメ、特撮を通しての社会評論、日本人論を書かれています。佐藤さんは1966年生まれなのでほぼ同年代ですから、取り上げる作品も感じ方もシンパシーを感じ、自分の思いを代弁してもらってる感じです。
序章は、2012年に書かれてます。ゴジラと福島第一原発事故並びに東日本大震災に置き換え、その災害を日本人は待っていたと論じます。不謹慎だからあまり声高くそういうことをいう人はいませんが、日本人の心の中には、ある種の破滅願望があると。
太平洋戦争では、鬼畜米英といって死力を尽くし戦い、同胞を300万人以上犠牲にしたにもかかわらず、戦後、"敗戦"を"終戦"と言い替え、"占領軍"を"進駐軍"といい尻尾を振った。確かにそうすることで、経済的には繁栄をし、70年以上の戦いのない世界を実現できた。しかし、これを「変節」として、先人たちに対して顔向けができないという後ろめたい想いは、日本人なら多かれ少なかれ持っている。戦後に代わる新しい枠組みを作るべく、日本人すべてが共有できる災害を経験することが必要だという考え。
この考えに与するか否かは意見の分かれるところでしょうが、安倍総理がしきりと唱える「戦後レジーム(戦後体制)からの脱却」はまさにそういうこと。更に佐藤さんは、これら変節の歴史はなにも第二次世界大戦後に始まったことではなく、鎖国から開国に至る明治維新すらも変節であって、日本(人)のアイデンティティの復興を訴える。
ただ災害を求めるといってもあくまでも復活を前提とした災害。そんな都合のいいものはあるか!と苦笑してしまいますが、確かに日本人が一丸となって立ち向かう何かがなければ、この国は常に先人たちへのコンプレックスを持ったまま生きていかないといけない。とはいえ、そんな大災害があったからといって、まともな世界ができるとは限りませんが。
「日本沈没」が大ヒットしたり、「ノストラダムスの大予言」が社会現象になったりするのも日本人の復活を前提とした自滅願望の表れなんでしょう。
まさにそういう洗礼を受けた私たち世代からすると佐藤さんの言うことがすごくすんなりと胸に入ってきます。
恐らく私たちより上の、戦後復興、高度経済成長で日本を盛り上げてきた世代は、この本を読むと怒るんじゃないかな。
私たちより下の世代の人は、どう読むんだろう。。
「シンゴジラ」に関係あるっちゃーある、ないっちゃーない感じですが、なかなか興味深く読めました。

- 作者: 佐藤健志
- 出版社/メーカー: VNC
- 発売日: 2013/09/26
- メディア: 単行本
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