今野 敏著・新潮文庫
警察キャリアでありながら現在所轄署長の竜崎伸也を主人公にした「隠密捜査シリーズ」から、竜崎の同期で幼馴染の伊丹刑事部長を主人公とした短編集。
「病欠」は、インフルエンザが猛威を振るう警視庁管内で、痛みまでインフルエンザになり指揮が乱れる話。朝悪寒がする伊丹。刑事部長という立場なので無理を押して出勤するが体調は絶不調。周りからも通院を勧められるが責任感から伸ばし伸ばしに。そんな中殺人事件が発生、捜査本部を立ち上げることに。しかし管内警官がインフルエンザで欠勤が多き捜査本部に人を集められない。インフルエンザだらけの所轄の多い中、竜崎署長の大森署だけが奇跡的に通常通り。人を割いてもらうため伊丹が直接竜崎に話を聞くと、厚生課からインフルエンザ流行の連絡があった時、書内に加湿器や花瓶を置いて加湿に努め、署員には予防接種を言明しただけだと、「危機管理意識の問題」と平然と言う…。そして伊丹に捜査本部で偉そうなことを言う前に家に帰って寝ることが今一番すべきことといい、伊丹は捜査本部長を竜崎に任せる。個人的にはなんともタイムリーな話(^_^;)。
「試練」は「隠密捜査3疑心」の裏話。これ単体でも勿論面白いけど、「試練」を読むと裏側でどのような策謀が巡らされていたのかが分かり面白い。
その他のお話しも伊丹の人となりが分かるだけでなく、悩んだ時の筋の通った竜崎の一言で解決の糸口を見つける、といった内容で、本編にある竜崎像が更に補完されます。
藤本警備部長に竜崎について尋ねられた時、伊丹はこのように答えます。
「普通の人間は、本音と建て前を使い分けます。しかし、彼には建前しかないのです。建前が本音なのです。竜崎にとって大切なのは原理原則です。どんなに複雑な問題に直面しても、彼は他人に迎合することなく、原理原則を貫き、結果的にそれが問題を解決することになるのです」
そして、竜崎の秘書官として派遣される畠山美奈子の「竜崎の事を嫌いか?」と尋ねられ、
「いや、嫌いじゃない。これまであいつに何度も助けられた。その恩もある。いや、そういうことじゃないな。あいつは常に気になる存在だ。そう、好きか嫌いかと尋ねられれば、やっぱりすきなのだろうな」
と答えます。つまり人間的に本音と建て前を使い分ける伊丹の存在が、読者と同じ目線で建前(原理原則)=本音の竜崎を見ているという構図がこの「隠蔽捜査シリーズ」となるわけです。
竜崎みたいな人間がそのままいたら付き合いにくいことこの上ない。ところがその人柄こそが好ましく、このシリーズから目が離せないと感じるのは、本来できることならそうありたいという気持ちの表れなのかもしれません。
私、どちらかというと竜崎っぽいんですよね。ただ竜崎程徹底していないから、冷や飯喰ったただのサラリーマン生活という状況なんですが…(^_^;)。

- 作者: 今野敏
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2013/01/28
- メディア: 文庫
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