沢木耕太郎著。昔、沢木耕太郎をむさぼり読んでいた時期があります。落ちぶれたボクサーとの奇妙な縁で彼の復活に賭ける様子を描いた「一瞬の夏」、激動の昭和とかで必ず流れる社会党委員長(当時)の浅沼稲次郎を演説会の檀上で衆人環視の中刺殺した学生服の男山口二矢(おとや)の話(「テロルの決算」)、そして香港から倫敦まで乗合バスだけでユーラシア大陸を旅する「深夜特急」。
この本は、「深夜特急」の前後、旅への想いをまとめた「深夜特急」ボーナスディスクみたいな感じ。なので、これを先に読んでも全然問題は有りませんが、出来れば本編を読んでからの方が断然面白いです。
「深夜特急」は文庫化('94)されてから読んだので、既に結婚、長男も生まれており、もうこんな旅ができないことに大泣きしたのを覚えています。旅行をすることは決して嫌いではないのですが、昔から日々の雑事に追われて旅行らしい旅行に行くことができませんでした。一番時間があったであろう大学時代ですら、クラブやバイトなどでまとまった時間が取れず、気が付いたら就職、結婚と本当に自由になるう時間はどんどん減っていきました。
この本の中で、沢木が後年マラケシュに行った時、白人の2人組と会う。飲みながらこれまでの旅の話をすると大変うらやましがる。沢木は何気なく「あなたたちもできますよ」というが、男は一言「Too late(遅すぎるよ)」という。
旅をすることは、いつでもできる。でも旅を感じることは、年齢毎に全く違ったものになる。20代の旅と40代の旅はおのずと違うもの。単にお金を掛けた旅か否かではなくて、年齢分の様々な経験が澱となって、旅を吸収できなくなってくる。
ただ、最近思うのです。
遠くに行くだけが旅ではないと。こうして、毎日通勤電車に揺られて会社と家の往復をしていても、たくさんの人との出逢いと別れがあって、昨日と違う今日を過ごすこともその一つひとつが自分の糧となっている。本当は中学校の先生になりたいという想いで入った大学も、資格は取ったものの結局一般企業、しかも自分の一番苦手な飛び込み営業なんかを選んでしまったり、結婚して子供ができたというのに転職しちゃったり、そういう大きな節目だけでなく、毎日の積み重ねが旅と等質のものを自分に与えてくれているような気もするのです。
もっとも、そうして昇華しているだけかもしんないけど…。でも、あらゆる意味ですべてを捨てて旅に出ることなどもう無理なので、こうして本を読んだりすることで、追体験をさせていただいております。沢木耕太郎、何を読んでも面白いです。お勧め。
- 作者: 沢木耕太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/04/26
- メディア: 文庫
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