日々雑感っ(気概だけ…)on Hatena Blog

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「希望の国」 を観る。

2012年・園子温監督


 東日本大震災後の20XX年、原発のある長島県(架空の県ね)沿岸に巨大地震とそれにともなう津波により原発が爆発する。福島の教訓が生かされない未来。今度も同様に地元の人に避難指示が出される。
 丁度原発から20km圏内とのことで、酪農を営む小野家の庭に、警察と防護服を着た一団がいきなりやってきて杭を打ち"KEEPOUT"のテープを張りだす。小野の家のある側は20km圏内だから、強制避難はしなくてよいが、道路に面した庭のむこう側にある近隣の家は避難所に強制退去させられる。杭とテープで分かたれるだけで安全?まずそこで観客に疑問を提示する。
 小野家の主人、小野泰彦は、つい先日他界した夏八木勲。奥さんは、認知章を患っている智恵子(演:大谷直子)。息子夫婦(村上淳神楽坂恵)とともに酪農を営んでいる。ご近所の夫婦(でんでん、筒井真理子)の息子は、彼女と遊びまわって親の手伝いもしようとしない放蕩息子。
 夏八木夫妻と神楽坂夫妻、そしてでんでんの息子とその彼女。この3組のカップルを中心に話が進んでいきます。
 

 ついに避難区域に指定されたものの避難に承諾せず認知症の奥さんと生活を続ける夏八木。自主避難していた神楽坂夫婦は、妊娠したものの被災地に近い仮設住宅では放射能が危険と、防護服を身に付け街を歩く。でんでんの放蕩息子は、津波で行方不明となった彼女の両親を探す為、津波被災地を歩きまわる。


 東日本大震災から2年。東京ではあの災害を忘れたかのような日常が続いていますが、津波被災者は勿論、福島の原発被災者は今も苦しんでいる。この映画は、園監督が、実際に福島原発事故で被災された方々の話を再構成し作られたセミノンフィクションと言ってもよい。


 「希望の国」というタイトルは、どういう意味なんだろうと考えながら観ていてふと思いついたのがギリシャ神話の「パンドラの箱」の物語。


 昔ギリシアの神ゼウスは、巨人のプロメテウスを呼んで、粘土で我々と同じ姿をした生き物を作れ。わしが息を吹き込んで、命を与えてやろうと言います。プロメテウスが言いつけ通りの生き物を作ると、ゼウスはそれに命を吹き込んで人間と名付けました。
 次にゼウスは、こんな命令をしました。「人間に生きていく為の、知恵を授けてやれ。ただし、火を使う事を教えるな。火は、我々神々だけの力。人間に火を使う事を教えると、我々の手におえなくなるかもしれんからな」
 こうしてプロメテウスは、人間に生きていく為の様々な知識を授けました。しかし火がなくては、物を焼く事も煮る事も出来ません。いつも寒さに震え、真っ暗な夜は動物たちに襲われる恐怖におびえていました。そこでプロメテウスはゼウスの言いつけにそむいて、人間に火を与える事を決心しました。
 プロメテウスは弟のエピメテウスを呼ぶと、こう言いました。
「おれは人間たちを、とても愛している。
 だから人間たちに、火を与えるつもりだ。
 だがそれは、ゼウスの怒りにふれる事。
 おれはゼウスに、ほろぼされるだろう。
 だからお前が、おれの代わりに人間を見守ってやってくれ」
 プロメテウスはそう言うと、太陽から盗み出した火を人間に与えたのです。
 そして怒ったゼウスに山につながれて、ワシに食い散らされてしまいました。

  間もなくゼウスは、職人の神へパイストスに命じて、この世で一番美しいパンドラを作らせると、エピメテウスのところへ連れて行かせました。
 人間に火をもたらした罰に送り込まれたともいえるパンドラには、神々からさまざまな贈り物をさずけられていました。
 美の女神 アフロディーテからは美しさを、アポロンからは音楽と癒しの力を、そして何よりゼウスは、パンドラに好奇心を与えていたのでした。
 エピメテウスはパンドラの美しさに心を奪われると、パンドラを自分の妻にしました。
 エピメテウスの家には、プロメテウスが残していった黄金の箱がありました。
 黄金の箱は、病気、盗み、ねたみ、憎しみ、悪だくみなど、この世のあらゆる悪が閉じ込められていて、それらが人間の世界に行かないようにしていたのです。
 プロメテウスはエピメテウスに、
「この箱だけは、決して開けてはならない」
と、言っておいたのですが、パンドラはこの美しい箱を見るなり、中にはきっと素晴らしい宝物が入っていると違いないと思いました。
 そこで夫に箱を開けて欲しいと頼みましたが、エピメテウスは兄との約束で、決して首を縦に振りません。
 するとパンドラは、
「あなたが箱を開けてくださらなければ、わたしは死んでしまいます」
と、言い出したのです。
 そこでエピメテウスは仕方なく、兄との約束を破って箱を開けてしまいました。
 そのとたん、箱の中からは病気、盗み、ねたみ、憎しみ、悪だくみなどのあらゆる悪が、人間の世界に飛び散ったのです。
 エピメテウスがあわててふたを閉めますと、中から弱々しい声がしました。
「わたしも、外へ出してください・・・」
「お前は、誰なの?」
 パンドラが尋ねると、
「わたしは、希望です」
と、中から声が返ってきました。
 実はプロメテウスが、もしもの為に箱に忍び込ませておいたのです。
 こうして人間たちは、たとえどんなひどい目にあっても、希望を持つ様になったのです。

―☆―
 そう、人間は原発というパンドラの箱を開けてしまった。諸々の最悪が世界に飛び散りましたが、箱の中には希望が残っていたんですね。
 だから、この映画は「希望の国」というタイトルになったんだと。どこにもそんなことは書いていないんだけど、たぶんそうなんでしょう。


覆水盆に還らず。だからこそ、もう2度と盆に水をこぼさないようにする智慧が必要だと思いいます。
同じ過ちを、同じ不幸は二度と繰り返しちゃいけない。同じ哀しみを後世の人に与えないようにする為に、今自分はどうすればよいのか、考え行動しないといけないですね。


園子温監督作品とは思えない、エログロ無しの映画。でも直球勝負は変わらず。

今だからこそ観る映画。
ただエンターテイメントじゃないから、「楽しかった〜」にはなりませんが。


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