「隠蔽捜査」シリーズの2巻。1巻と時系列上の繋がりはあるけど、単独でも読めます。
前巻で長男がヘロインを使用、それをもみ消さず報告をした竜崎は、大森署に署長として赴任。左遷ですね。そこでも本音、正論でこれまでの警察組織とは違った運営の為副署長以下は戸惑う。そんな時、管内で立て籠もり事件が発生、結果的にはSATが突入し、人実は無事救出、犯人死亡で事件は終了したが、犯人射殺がマスコミから非難され、竜崎の立場はまたも窮地に立たされる。
相変わらずもが離せない展開で、今回は奥さんが倒れ緊急入院するという家庭の問題も発生。構成的には1巻目と変わっていません。1巻目で既に竜崎の魅力が分かっている読者にとっては2巻は安心して読めます。
勧善懲悪のお話し、日本人って好きですよね。絶体絶命の危機が何度も訪れ、さすがに今回はもう駄目か…というところで一発逆転「正義は必ず勝つ」。最近ヒットしたドラマでいえば「半沢直樹」「花咲舞が黙ってない」なんかの池井戸作品や「下町ロケット」などもそう。勿論私も好物ですw
ここで竜崎が言うことはいちいち首肯できることばかり。今回特に思ったのは以下の言葉。地域の教師PTAなどとの防犯対策懇談会の席でのこと。PTAは学校や警察にもっと巡回強化や治安回復に努めるべき、学校は学級崩壊の事を責められる。竜崎はそんなPTAにこう話す。
「警察は可能な限りのことはやらせていただきます。さてそれではあなた方は警察に対して何をしてくださいますか?」と。
警察からそんなことを懇談会で言われた事のないPTAは面食らう。
「世の中の原理原則です。要求だけして済まされるというわけにはいかないでしょう。権利には常に義務がついて回ります。要求をするのなら、当然何かの責任を果たしていただかなければならないと思います。」
その後、「犯罪を取り締まるのは警察の仕事」とか「納税者のために働くのは当然」といったよくある警察、公務員批判が続きますが、弁舌鮮やかにこれもまた"正論"で突っ返します。
そして、治安が悪くなった現在について、日本人の望んだ生活を実現した結果だといいます。
「…戦後の復興は、日本人の悲願でした。カラーテレビ、クーラー、自家用車。それらが揃った中産階級の家庭。それを日本人は目指し実現した。次に人々は自由を求めた。狭い家に3世代同居が当たり前で、子供が自分の部屋を持っているなんて考えられない時代。それが団塊の世代を中心に核家族化が進み、大家族から自由になった。と同時に、人々は村社会から自由にになった。村社会というのは住民同士の関係が密な社会。それがうっとうしいので都会ではそういう関係から自由になろうとした。昔は3世代で住んでいて地域の付き合いが大切にされていた。その付き合いの大半を担ってのは老人たち。老人たちがネットワークを形成して、そのネットワークの情報が家族で共有される。家庭というネットワークに子供も参加していた。なのでその情報網から隔絶されたところにいる不審者とか要注意人物は自然と浮き彫りにされていた。豊かさと自由の代償として、そうした地域社会を破壊してしまったのです。そこにはプライバシーはなかったかもしれないが、明らかに今よりも治安はよかった。そう思いませんか?」
この部分って、この小説の本筋とは何ら関係のない部分です。ですが、竜崎の人となりと考え方がよくわかります。
最近実家に帰ると感じる事の回答がこの数ページでまとめられています。竜崎の言っていることはもっともです。でも今更来た道を戻れない。
たかがフィクションの警察小説ですが、そういった中にも問題提議と今を生きるヒントがあります。
第1作とともに、お勧め。

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