五木寛之著・幻冬舎新書
小説家・作詞家のエッセイ集。2011年震災後に出版されて一ちょっと話題になりました。
「下山の思想」というとネガティブな感じがします。やっぱ"坂の上の雲"を目指して、意気揚々と登山をする方がどちらかというと受け入れられやすい。そうやって日本は明治維新から2つの大きな戦争に勝利し、調子に乗って先端を広げ過ぎた大東亜戦争で大敗を喫する。そしてまた山を登り続けた70年。そして2011年。主に東日本を襲った大震災が多くの人命を奪い、人の人生を狂わせた。特に三陸の津波と福島の原発事故の影響は計り知れない。6年経っても完全復興には程遠く、原発の廃炉には50年はかかるという。
「下山の思想」の主旨は、山登りには登山・登頂・下山の3つの行程があるけど、登山にばかり集中して、下山の事を考えない場合が多いけど、それでは駄目だということ。頂上を目指している間と、頂上にいる時は楽しいけど、下山については語られることがない。でも下山も山登りの大切な一部。無事下山をすることで、次の峰を目指すことができる。登山の時には目に入らなかった高山植物や風景も下山の楽しみだ。
どうしても人は登山ばかりに目を奪われる。まるで下山なんてなくて、最後までずっと登山が続くかのように。無事目標だった頂上にたどり着き降りる人も、志半ばにして頂上にたどり着けず降りる人も、いずれにせよ山を下りて家に帰る時が来る。
頂上を目指して登山をしている最中に、下山の事を考えるなんて負け犬の発想だ、という人がいるかもしれない。がむしゃらに頂上を目指す姿の方がかっこいいという人もいる。サラリーマンの人生が登山だとすると、定年退職後どうやって生きていくかを考えることはとても大切な事だと思う。
「遠足は家に帰るまでが遠足」といいます。まさにそういうこと。
- 作者: 五木寛之
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2011/12/09
- メディア: 新書
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