亡くなって15年も経つ著者の作品が出版社を変えて再刊されるというのは、明治の文豪の作品ならともかく、結構異例な事だと思う。
だいたいの場合、亡くなった時に店頭でフェアとかやって在庫一掃して、後は絶版、入手困難となるのが普通。小松左京も平井和正も亡くなってからほとんど再刊はない。まだ小松左京は「日本沈没」のTVドラマ化やNETFLIXでのアニメ化などで再刊されることはありましたが、その他の作品は殆どなし。平井和正は今年亡くなってちょうど10年、大ヒットした「幻魔大戦」も名前だけは聞いた事ある程度の人、ウルフガイに至っては、ヤングの方は「狼の紋章」「狼の怨歌」が2018年にハヤカワja文庫で再刊されて以来、紙媒体では再刊されていません。アダルトウルフガイなんか1999-2000年にハルキ文庫で出て以来再刊なく既に四半世紀。。
蓮丈那智フィールドファイルは、全5巻。4巻のシリーズ初の長編「邪馬台」が絶筆となり、未完の遺作を婚約者である浅野里沙子が完成させ、最終巻は、未収録短編2編と、浅野里沙子が遺志を継いで執筆した4編を収録。今回全5巻すべて再刊されました。どうやら角川文庫編集部に隠れ北森ファンがいるとみた。
「触身仏」は、。表題作の「触身仏」他「秘供養」「大黒闇」「死満瓊」「御蔭講」の5つの短編を収録。
民俗学者のクールビューティ―、蓮杖那智先生と助手の内藤三國が、事件に巻き込まれ解決する話。とはいえ、殺人事件はどちらかというと”添え物”で、各編のテーマは民俗学上の謎とされる事について、謎解きをするのがスリリングだったりします。
私も上代文学専攻で主に古事記・日本書紀を物語として解体しその後の物語にどんな影響を与えたかという勉強をしていたので、かなり親和性が高い。ゼミ室には折口信夫、柳田国男の全集もあったし、私の卒論は伊邪那岐・伊邪那美神話とか素戔嗚神話、三輪山伝説に材をとって、なんか書きました(「死と再生」とかだったかな、よく覚えていない(^^;))。
口伝で残されたものを稗田阿礼が「誦習」していたものに『帝皇日継』(天皇の系譜)と『先代旧辞』(古い伝承)を混ぜて太安万侶が文書として編集した「古事記」。国の歴史書として正式に編纂された日本書紀は、それぞれ、時の権力者の意向に沿って編まれているわけで、民間に残る習俗、風俗、古文書にも正解が含まれている可能性がある。民俗学が必要なのは、過去と現在を繋ぐピースをはめ込んでいくパズルのようなもの。蓮丈那智シリーズは、そのパズルの完成(と思えるもの)のカタルシスを感じることが出来ます。
殺人事件のあるミステリーはちょっと…と敬遠されている方、ちょっと日本神話、民俗に脅威のある人には、今回全5巻再刊されましたのでお勧めです。
(BOOK OFFにも新潮文庫版が良く置いてます)