藤崎慎吾の短編集。これまで発表された長編の後日譚、前日譚などを含んでいますので、そちらを先に読むとさらに面白いですけど、この本だけで読んでもOK。
昔は、好んでSF作品を読んでいたことがありましたが、90年代のサイバーパンク系のものが結構苦手で、以来ハードSFものはだんだん読まなくなっていました。最も昔から、ウェットな日本SFが好きだったので、日本SF第1世代の本が書店から消えてしまってからは気負ってSF作品を読むことはなくなりましたが。
今回の「レフトアローン」
表題作は著者のデビュー作「クリスタルサイレンス」の前日譚で、タイトルは往年のジャズナンバー「LEFT ALONE」から来ています。
この曲、好きだなぁ。
2話目の「猫の天使」は、猫好きだったら面白いかも。猫の視点をジャックできるソフトを開発した主人公。猫が紛れ込んだ教会で人質事件が発生して、猫の目線で教会内部を窃視するという話。
3話目の「星に願いを ピノキオ二〇七六」は、やっと授かった子供が、ウェットウエアとしてネットワークに乗っ取られていたという話。
4話目の「コスモノーティス」は、人類と違った形態の知的生命体の話。
そして第5話「星窪」は、奄美大島で崇められているミカン箱大の石がじつは彗星のかけらで、地球に来るまでの記憶と宇宙に偏在する同胞(同じ石たち)の記憶を持っていてその意志と交流できた画家と天文学者の話。
面白かったのは「猫の天使」と「星窪」ですねぇ。
特に「星窪」の石に刻まれた記憶って、よく考えてみれば今のコンピュータって石(シリコン)に記憶させているわけで、自然の石ももしかしたらこれまでのさまざまな事柄を記憶しているのかもしれないと。ピラミッドやモアイ、ストーンヘンジだけでなく、日本にも巨石文化や巨石信仰なんてのはたくさんあって、それが単に大きい事のみで信仰を集めるというのは、昔から疑問に思っていました。もしかしたら、石の記憶を引き出せる人が巫女だったりするんじゃないのかと、想いは広がっていきます。
いまやSF的な内容は一般小説に入り込んでいて、明確にSF、非SFの線引きってできなくなっています。
いずれにせよ死ぬまでにあとどれくらい面白い話を読むことができるのか。いっぱい読めるといいなぁ。
- 作者: 藤崎慎吾
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/02/01
- メディア: 文庫
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