北森鴻著・新潮文庫
「邪馬台」のタイトル通り、蓮杖那智が邪馬台国の謎に迫るシリーズ初の長編。しかしながら完結を前に著者は逝去されてしまう。結末のないミステリーを出版するわけにもいかず、宙ぶらりんになっていた作品。初長編ということで蓮杖那智シリーズ以外で単独シリーズをもつ冬狐堂シリーズの宇佐美陶子や骨董商の雅蘭堂・越名集治が重要な役どころで登場します。北森作品埋もれさせてしまうのはもったいないということで、後半を書き継いで完成させる事に。これを描き継いだのは、北森鴻と婚約をしていた作家の浅野里沙子さん。
明治時代に突如として地図から消えた鳥取県阿久仁村。越名が手に入れた長火鉢の引き出しが2重になっていて、そこに納められていたのが「阿久仁村遺聞」と書かれた和綴じの本。25話から成るその物語集は、廃村になった阿久仁村で拾い聞きされた民話を集めたものだった。
邪馬台国を製鉄と酒の観点から民俗学的に解き明かすことをテーマにしていた那智は、この「阿久仁村遺聞」に古事記との相似性を見出す。そんな時越名が鳥取に赴き、阿久仁村の末裔という2人組と会う。そこから越名は人が変わったようになり阿久仁村の謎を解いてはいけないと那智に告げる。
邪馬台国についての考察は、これまでたくさんの人が行っていて、今更なんで…と思いましたが、そこはそれ、北森鴻のアプローチはこれまでの説とも異なる面白いものでした。ミステリーとしての要素もあり、奥行きと広がりを持つ北森ワールドを十分堪能。書き継いだ部分も違和感はありません。ただできれば北森鴻自身に完結してもらいたかった。
蓮杖那智シリーズはこれで完結でしたが、まだ2作の短編があり、更に浅野さんにより数編描かれて最終巻が3月に文庫化されました。またこの「邪馬台」に関連する、能見寛を描いた「暁の密使」、三角縁神獣鏡にまつわる冬狐堂の「狐闇」を合わせて読むと更に面白いらしいので続けて読みます。
- 作者: 北森鴻,浅野里沙子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/01/29
- メディア: 文庫
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