百田直樹著・幻冬舎文庫
90年代後半から出版業界は不況だ。出版社、書店はどんどんつぶれ、漫画雑誌は軒並み売れなくなり、小説は言わずもがな。一握りの作家、作品が、出版社や多くの(売れない)書籍を支えている。
新聞も発行部数を落としていますが、単純に活字に触れなくなったということではなく、若い人は特にネットの世界の活字を読むようになっただけ。
かくいうわたくしも、最近新聞はあまり読まない。ニュースは専らネット。購読1紙だけを読んでいるよりも多くの新聞が読めて、一つの事象が書きようによってこんなに違うことに改めて驚かされます。
漫画も小説も読みます。自分で物語を紡ぐ能力はないので、今は出版をしたいという気持ちにもならないし、当然こういう世の中の状況だから売れる本が書けるなんて思えない。その点blogは、別に儲けを意識することなく、他人に迷惑を掛けることのないので気が楽です。
カルチャーセンターなんかでも自分史を書く講座があって、盛況だとか。出版不況といわれる中でも毎日たくさんの本が出版されていくのは、読む人(買う人)より書きたい人がいかに多いかということの表れ。完全に需給のバランスが崩れた業界です。
この本は、作家本人がお金を出して本を出す「ジョイント・プレス」専門の出版社の話。この出版社は、文学賞名目で作品を集め、言葉巧みに高額な自費出版をさせる、詐欺すれすれの会社。幾人もの素人作家が出てきますが、どいつもこいつもプライドばかり高い社会不適応者。
ここで出てくる作家、編集者って作者一流の皮肉です。勿論自分自身すら「元テレビ屋の百田何某みたいに、毎日、違うメニューを出すような作家も問題だがな。前に食ったラーメンが美味かったから、また行ってみたらカレー屋になっているような店に顧客がつくはずもない。しかも、次にいってみればたこ焼き屋になってる始末だからな―」と主人公の編集部長に語らせる。百田さんの小説、毎回違った趣向で楽しませてくれて面白いですよ。五十嵐貴久さんなんかもまさに大衆食堂的なんでもメニューで、しかもみんな面白い稀有な作家さん。苦しんで作品を生み出す作家さんよりも書きたいことが沢山あっていくら時間があっても足りない作家さんの物語の方が面白い。夢枕獏さんなんてのもこのタイプ。
後半、同じ自費出版の新興ライバル会社が現れ、このライバル会社の詐欺まがいの出版と主人公の会社の比較がでてきます。
いずれにせよ、今の時代に他人の金で本を出すというのは選ばれた一部の人。そしてその中で生き残れるのもさらに一部の人。
私なんかはこのblogで駄文を垂れ流すので精一杯w間違っても「出版しませんか?」などと声を掛けませぬよう。
もしかしたら自分も本を出せるかも…なんて夢を持ってる人、必読。一発で夢を砕かれます。
ただラストはすごくよかった。
いい編集者というのもまだいるに違いありません。
本好き、出版業界気になる人、お勧め。

- 作者: 百田尚樹
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2015/04/03
- メディア: 文庫
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