上下巻・楡修平著・講談社文庫
バブル狂乱を代表する、総合商社伊藤萬株式会社(当時)を舞台にした通称イトマン事件。この事件をモデルにしたお話し。
お話しはバブル前夜、オイルショックを契機に連続赤字だった一部上場企業にメインバンクの役員滝本が社長として送り込まれる。社長に転じた滝本は、次々と社内改革をし、2年で赤字を解消、3年目には復配をするまでにする。
徹底した結果主義、数字至上のやり方で、確かに数字はあがったものの浪花物産の社内は疲弊し、報告の為の報告、月跨ぎで月末黒、月初に赤を切る的な"ごまかし"が横行するようになる。
更に利益を上げたい滝本社長は、社内のファイナンス部門を強化。元々繊維専門商社だったこの会社の利益のほとんどをファイナンス部門が上げることになる。送り込まれた銀行屋が、自分の知識をもとに金貸しをしてるだけ。
一流大学卒が幅を利かせる銀行という社会で、商業高校を卒業して常務まで上り詰めた滝本。しかしトップの頭取にはさすがに届かない。そんな時の一部上場企業社長の椅子。しがみつきたい気持ちもわからないではない。しかし、度を過ぎた滝本の野心は、バブルを味方につけて異常に膨れ上がる。
決して悪い人ではない。私腹を肥やして豪遊したわけでも、自分の資産として貯めこんだわけでもない。敢えて言えば、「一国一城の主」になりたかった。しかしやり方がまずい。所詮銀行屋の浅知恵で、既に完成された”城”を乗っ取ろうとしただけだし、その為に金を転がした。右肩上がりで、株価や地価があがっていれば問題が発覚することはなかったけど、神様は味方しなかった。不動産融資の総量規制と金融引き締めによって投資熱は冷め、あらゆる投機商品の価値が暴落、含み益が一瞬にしてまさにあわ(バブル)と消えた。
株、土地、絵画、ありとあらゆるものの価値が下がる。投機対象としてそこのキャピタルゲインを当てにしていた人の多くが、被害を被った。
住む為の土地だったり、好きだから手元に置いておきたい絵画であれば、その価値の上下はあまり関係はない。バブルの本質は、ものの好き嫌いではなく、価値のあるものを手に入れ、更に価値が上がったら転売するそこで生じた利益(お金)だけに興味があったということ。滝本社長も本来は一時的に出向した会社が欲しくなり、時代の錬金術で金を産みその会社を自分のものにしようとして失敗しただけ。
外食チェーンの凰味亭は、創業者社長の才覚で小さな居酒屋からスタートをした。それを金の力にものを言わせて滝本に乗っ取った。起業した中小企業の社長を大企業の力でわがものにする。滝本社長も才能のない人ではないから、浪速物産を自分のものにしようとせず、職を辞して自分で起業すればよかった。とはいえ、サラリーマン根性の染みついた滝本には無理か…。
私、ちょうどバブル真っ最中に社会人になったのですが、仕事で精一杯だったので恩恵は受けなかったですね。不動産や証券会社に就職した友人は羽振り良かったけど、今は何をしているのやら…。
バブル時代、翻弄された人はいい時期があれば合った分だけ崩壊後は大変だったろう。地価が下がり安定したからこそ私のような薄給サラリーマンでもリカちゃんハウスみたいなマイホームを手に入れることもできた。それはよかったことだと思うけど、バブル時代の乗りの良さ、遊ぶ為に働く潔さは完全になくなって、保守的になってしまったのは残念。勿論非正規雇用が増えて収入は激減。いくら働いても生活するのがやっと、なんて時代では、そもそも働く意欲も失せるので、そんな状況で元気を出せと言っても土台無理な話ですが。
庶民は、千万単位までで生活をしていればよい。それで実は十分だったりする。億単位になるとお金と一緒にいろんな問題を抱え込む。お金は幸せも運んで来るけど同時に不幸も運んでくる。バブル時代もなんとなくワクワクして楽しかったけど、今もそこそこ楽しい。それでよい。
- 作者: 楡周平
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/02/13
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