篠田節子著 新潮文庫。
本人の思惑以上にどんどん拡大していく教団に綻びが出、それをきっかけにするかの如く怒涛のように転落を始める。上巻の拡大と栄光のカタルシスから、崩壊のクライシスに物語は進んでいきます。
新興宗教はすべからく危険ではないか?という疑念を持つのは、オウム真理教以降誰の心の中にもある共通の思いだと思う。それ以前にもあれほどの事件は起こしていなくても統一教会の問題など宗教にまつわる事件問題はいつの時代でも起こっている。
とはいえ、宗教=悪という図式を簡単に描く事もまたできない。たとえば殺人という行為は、一般的には悪であるけれど、それを教義に織り込んでいて実践しただけとなると彼らの視点では善行、つまり確信犯ってことになる。人の心にはいつでも隙間があって、それを埋めるものとして宗教があるんだと思う。
では、教祖と呼ばれる人は本当に高潔なのか。いや、高潔で精神的に位の高い人なのかも知れない。でもこの世に生きている以上、衣食住の心配はしないといけない。自分が放蕩したい為でなくても、教団を支える為には多額の現金が必要だ。拡大すればするほど資金は必要になってくる。献金システムでの金のトラブルがつきまとう。
騙される奴が莫迦、と言ってしまえばそれまでだけど、そう簡単な問題じゃない。世界中で起きている宗教戦争、対立と、話はどんどん大きくなるけど、要は信じる教義の対立。本当に宗教問題は難しい。
話がずれた。
教祖は、至極まっとうな元都庁職員。別に神掛かったわけじゃなく、単純に金儲けの手段として教団をたちあげた。でもそこに集った人々が勝手に盛り上がった挙句教団は成長し、ある事件をきっかけに教団を脅かす事件が次々に起こる。世間の眼はマスコミに煽られ更に冷たくなる。そして最後は…。
上下巻で結構なボリュームがありますが、中だるみすることなく一気に読ませるところは、篠田節子の技術の賜物です。デビュー作「絹の変容」以降、何を読んでも外れがない作家さんです。私が好きなのは強いて挙げれば、「夏の災厄」「ゴサインタン−神の座」「アクアリウム」「神の鳥(イビス)」とかですかね。音楽をモティーフにした「カノン」「ハルモニア」も良かった。TV化された「女たちのジハード」(直木賞受賞作)、「百年の恋」など、強い女性を描くのもうまい。
これからも更に新しい物語を紡いでほしい注目の作家さんです。
長いけど、お勧め。

- 作者: 篠田節子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/05/28
- メディア: 文庫
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