会社から帰ってきて、カミさんから「読んでみ」といわれ差し出された絵本。
新見南吉と言えば「ごんぎつね」「手袋を買いに」が有名ですけど、こんなお話しも書いています。昔、カミさんが読んで、どうしても欲しかったのでamazonで買ったんだそう。
(青空文庫に有りました。原文は全てカタカナで読みにくいので、漢字かな混じりにします)
一匹のでんでん虫がありました。
ある日そのでんでん虫は大変なことに気が付きました。
「わたしは今までうっかりしていたけれどわたしの背中の殻の中には哀しみがいっぱい詰まっているではないか」
この哀しみはどうしたらよいでしょう。
でんでん虫はお友達のでんでん虫のところにやって行きました。
「私はもう生きていられません」
とそのでんでん虫はお友達に言いました。
「何ですか」
とお友達のでんでん虫は聞きました。
「わたしは何という不幸せな者でしょう。わたしの背中の殻の中には哀しみがいっぱい詰まっているのです」
と、はじめのでんでん虫が話しました。
するとお友達のでんでん虫は言いました。
「あなたばかりではありません。わたしの背中にも哀しみはいっぱいです」
それじゃ仕方ないと思って、はじめのでんでん虫は、別のお友達のところへ行きました。
するとそのお友達も言いました。
「あなたばかりじゃありません。わたしの背中にも哀しみはいっぱいです」
そこではじめのでんでん虫はまた別のお友達のところへ行きました。
するとそのお友達も言いました。
「あなたばかりじゃありません。わたしの背中にも哀しみはいっぱいです」
こうして、お友達を順々に訪ねて行きましたが、どのお友達もおんなじことを言うのでありました。
とうとうはじめのでんでん虫は気が付きました。
「悲しみは誰でも持っているのだ。わたしばかりではないのだ。わたしはわたしの悲しみをこらえていかなきゃならない」
そして、このでんでん虫はもう、嘆くのをやめたのであります。
初出:「ろばの びっこ」羽田書店 1950(昭和25)年6月5日
youtubeに朗読がありました。
生きていると、いろんなことに悩んだり苦しんだり、こんな不幸を背負っているのは世界中で自分ひとりのような気分になります。でもみんな多かれ少なかれ悩みを抱えている。悩みのない人なんていないでしょう。そういうことに思い至った時、自殺をすることの愚かしさを思う。
大丈夫、みんな生きている。