斎藤貴男著・文春文庫
今の人たちにとっては完全に過去の人ですが、私たちの世代は"梶原一騎"の洗礼を少なからず浴びている。私なぞはそのど真ん中の世代で、アニメ化された「巨人の星」(68-71)「タイガーマスク」(69)「あしたのジョー」(70-71,80-81)「赤き血のイレブン」(70-71)「侍ジャイアンツ」(73-74)「空手バカ一代」(73-74)は熱狂的にみていた。同じ歳のカミさんは、これらの男性向き作品はどちらかと言えば嫌いだけど唯一「愛と誠」は例外的に好きらしい。
晩年の暴力団との付き合いや逮捕などで、梶原一騎ストーリーブームは一気に冷え込んでファンは離れて行きましたが、あの頃の梶原作品は本当に面白かった。後年の作品は必ず最後は暴力団、格闘技とパターン化されてしまい、あんまし面白くなかった。どんな事情があったのかおぼろげながらは知ってましたけど、この本を読んでようやくはっきりわかりました。
生来の暴力志向で生い立ちも複雑。小説家になりたかった梶原一騎は漫画原作者を一段低く見ていて、常に小説家に対してコンプレックスを持っていた。作品が当たると湯水のようにお金が舞い込み、その金に群がるように怪しげな取り巻きが出来る。そして裸の王様になって梶原一騎を演じ続けるようになる。
元々優しい人だった、という。家族を大切にして、取り巻きも大切にして。その挙句、自分が絶対的な強い人間になろうとした結果が暴力として現われる。一時は仲の良かった人とも離れるほど変節していってしまうのは、彼の弱さ。
稀代の名作を次々と送り出していながら、自分の人生の演出はとにかく下手だった。
昭和も終わりかけの62年、まさに昭和とともに亡くなりました。享年50歳と知り驚き。来年は彼の年齢に追いつきます。そう考えるとまだ若いなぁ。
それにしても後年、映画製作や格闘技のプロモートをしないで、創作に全精力を注ぎ込んでいれば、また違った名作が生まれていたかもしれないと思うと残念です。
- 作者: 斎藤貴男
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2005/08/03
- メディア: 文庫
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