日々雑感っ(気概だけ…)on Hatena Blog

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法師蝉


法師蝉 (新潮文庫)
吉村 昭著・新潮文庫
久しぶりの吉村昭作品。定年退職後の男性を主人公にした9つの短編集。
会社での階段を順調に進み、それなりの地位で退職して日がな家での生活が始まった男。妻は自分の時間をしっかりと持ち、その時間に夫の入る余地はない。出かける妻は、「鮭缶があるのでそれでご飯を食べて」とか、久しぶりに不夜の生活をしようとしても「そういうのはやめにしましょう」とやんわりと拒絶される。定年後の唯一の楽しみとなった、朝配達されるのを待ち過ぎにそれを取りベッドの上で広げると隣に寝ている妻が「電気が眩しい」とか新聞をめくる音が五月蠅いという。
 居場所のなくなった男は500万円を下ろし置手紙を置いて出ていく。落ち着いた先で安い家賃の家を借り釣りを楽しんだり自由な時間を満喫する夫。そこに世間体を気にして戻れと妻が現れる…。
 1作目の「海猫」という話ですが、その他の作品も似たり寄ったり。定年を迎えた男の悲哀の物語が続きます。

 会社努めをして出世競争に明け暮れる。仕事に没頭して家庭を顧みない。仕事に関係のない趣味に没頭するなんてこともない。それが正しい事という認識を持った戦後のモーレツサラリーマン達が日本を経済大国に押し上げたのは間違いのないこと。いまだにそういう社風の会社や、個人がいることもまた事実。
 年金の支給が65歳からになり、公務員の定年も65歳になるとか。一般企業も右へ倣えすることになり、そうすると年金支給が70歳からになる。。結局のところ、破たんしかけた年金は払うだけ払ってもらえない人が続出し、現役世代は"死ぬまで働く"事になる。定年になったら好きな事をして過ごす、と考えていたモーレツ社員たちはいざ定年退職をしたら妻から「ご苦労様でした。これから私も好きな事をさせてもらいます」と「え、どゆこと?3度の食事は?夫婦で旅行とかは?」と思う夫を疎ましく思う妻。定年になって、ずっと家にいるようになった夫の居場所は、自宅ではなく会社にしかない。しかも会社はもう来なくてよいという。
 家族の為と割り切って会社や顧客の無理難題を聞いてきたと思っていたら、実は家族の為でも何でもなく、逆に家族はその犠牲になっていたと思っている。熟年離婚が多いの頷けます。
 
 年齢的には主人公たちに近いのですが、私、100%こういう”濡れ落ち葉”にならない自信あります。
 趣味も仕事、友達も会社関係という人は結構います。それが期限が切られているとも知らず。期限が切れてから何かを始めようとしてもなかなかうまくいきません。首位を仕事にできている人なんて一握りで、普通のサラリーマンは仕事が趣味という幻想に浸り、家庭を、自分の本当に好きなものから無理やり目を背けているだけ。
 会社での出世は、より高い賃金と一部で発揮される名誉、プライドの充足が与えられますが、それが幸せかどうかはあくまでも個人の基準で絶対基準ではありません。このお話を読むと会社の戦略にまんまと引っかかったサラリーマンは哀しいよなぁと思わざるを得ません。

 一生働かないといけないなら、定年退職してから…なんていうことを考えず、仕事はそこそこ(もちろん収入もそこそこ)、仕事でプライドは充足されないかもしれないけど、好きな事を並行してやり、沢山の仕事以外の人と触れ合い友人を作ったり、家族との時間を大切にしている方が正解のような気がします。

法師蝉 (新潮文庫)

法師蝉 (新潮文庫)