春日太一著・文春新書
戦後邦画の戦争映画について解説された本で、この前に書かれた「時代劇入門」の戦争映画編といった趣きです。
日本の戦争映画は、一部を除き太平洋戦争を舞台にされることが多い。太平洋戦争は負け戦でという事を国民全員が知っている、すなわちどんなに盛り上がっても最後は悲惨な最期を迎えることがわかっている。
でもそんな戦争に材を取りながら、「日本の一番長い日」のような政治ドラマ、「ハワイマレー沖海戦」のような特撮ものと言っても過言ではないもの、「兵隊やくざ」のような青春もの、「独立愚連隊」「陸軍中野学校」のようなアクションものと、どうしてもステレオタイプになりがちなこの戦争ものでこんなにバラエティ豊かな映画が作られたのはなぜか。
戦争映画が公開されると「戦争賛美」か「自虐史観」かが必ず取りざたされる。この本ではそういった思想的側面を排して、「あの戦争を舞台に人間はどう生きたか」がどのように描かれたかを解き明かしている。特に監督、脚本家が戦争経験者だった80年代までの映画において、その体験をどのように映画表現されているか、という観点はとてもユニークだし、そういったまとめ方をした解説本ってなかったと思います。
巻末には「この世界の片隅に」の片渕監督との対談を収録。「この世界ー」は太平洋戦争当時の市井の女性を主人公にした物語ですが、ほんと画面の隅々にまでこだわってつくられています。毎年夏になると金曜ロードショーで「火垂るの墓」をやりますが個人的には「この世界ー」をやって欲しいと思います。
アメリカのヒャッホーな戦争映画もいいですが、日本の戦争映画も実は結構面白いという事をもっとみんなに知って欲しいという気概を込めて作られた本ではないかと。
ステイホームの夏休み、日本の戦争映画を観ようかな。