2012年・園子温監督
「行け!稲中卓球部」の古谷実の原作漫画映画化。ただ、当初企画していた原作に沿ったシナリオ執筆中に起きた東日本大震災により、大幅に原作を改変、ほぼオリジナル作品になったそう。原作未読なんで判りませんが、amazonとかみると原作ファンからはすこぶる不評です。
川辺りで貸しボート屋を営む住田家は母と中学生の祐一の2人暮らし。といっても母は、狭い家に男を連れ込み、時折父親は、金の無心に来ては毎回「お前なんか生まれてこなければよかった、死んでしまえ」といって暴力を振るうクズのような男。ボート屋の周りには、震災で逃げのびてきた人々がホームレスのように住みつき祐一を助けている。そんな祐一の夢は"普通に生きる"こと。
他の中学生と異なる祐一の言動に惹かれる同級生、茶沢景子。彼女も親から虐待を受けていて、「おまえさえ生まれてこなければ…」と母親から言われ続け、家では絞首台を作られている。
救いようのない祐一に震災で全てを失くした人々が、未来を託す。しかし、祐一は父親を殺してしまう。祐一は自殺する事も出来ず、自分の命と引き換えに世の中の悪党を殺して、"立派な大人"になろうとする為、出刃包丁を紙袋に入れ街を彷徨するが…、って話。
この後「希望の国」を撮るわけですが、これまでエログロ映画を作ってきた園監督なりの被災者へのエールの形と思えば、原作の改変は納得。現実に光明が見えている時は、救いようのない未来を描いていいけど、今はそんな状況じゃありません。震災から2ヶ月後、まだ余震の続く中、気仙沼でロケをしている中でも、監督の決意はより強くなったに違いありません。
未来を託すのは子供たち。その子供たちが、震災後の社会や大人たちにどんなに絶望しても「頑張れ!」と言い続ける事が、今大人のすべき事なのだと。
注目すべきは、祐一役の染谷将太と景子役の二階堂ふみ。いずれも園監督初起用ですけど、この2人の演技は素晴らしい。第64回ベネチア国際映画祭では、染谷と二階堂がそろってマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞したそう。これまでの園組の役者(神楽坂恵、吹越満、でんでん)他、バイプレイヤーもいい。
原作と違う、とか、ストレートすぎるとか、色々と賛否両論喧しい作品ですが、私的には、それまで話題になった「愛のむき出し」「冷たい熱帯魚」「恋の罪」に比べて、眼をそむけるようなシーンもなく安心して観られる作品でした。
祐一くんと景子ちゃん、それに彼らを応援していたホームレスの人々にホント、幸せになって欲しいと思わせる余韻を残す作品でした。
震災後の今だからこそ、園監督のメッセージを受け止めたいと思います。
「希望の国」とともにお勧め。
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