平井和正著・kindle/祥伝社・NONNOVEL版
アダルトウルフガイシリーズ第7巻。
アダルトウルフガイkindle再読マラソン7巻目。
犬神明が聖書に描かれた背徳の都市に転生し預言者ロトの娘をカルデアのウルとして助け出す人狼天使のプロローグ「ウルフガイ・イン・ソドム」。「憑霊都市」から人狼天使本編、「狼は泣かず」から続く、”メセトラ・プロジェクト”を追う為、ニューヨークに向かう犬神明。
犬神明に東丈が乗り移っている感じ。
すっかり回心して、霊能者として目覚めた犬神明の盟友、蛇姫、郷子との会話でこんなことを話している。
「狼男がたとえ世界一の肉体的強者だとしても、そんなことは本当にとるに足りない。精魂込めて尽くしたとしても、人間一人救うこともできやしないんだ。おれは自分の無力さをよく知っている。俺は自分の頭の蠅を追うこともできない人間さ。だからと言って努力を惜しむ口実にするつもりはないんだぜ。心の底から謙虚にいっているつもりだ。だれかが、おれに助力を求めているんなら、俺は全力を尽くすだろう。どうせたいしたことはできやしないが、そのためならアラスカでもシリウスでも喜んで出張するさ。だが、やはり、俺には荷が重すぎると痛感せざるを得ない。真のエースが登板するまでのワンポイントリリーフなのさ」
これ角川版「幻魔大戦」の東丈が、GENKENメンバーに語っていたことと完璧に重なります。「人狼天使第1部」が書かれたのが1978年、角川「幻魔大戦」が野性時代に掲載されたのが1979年ですから、”漫画版のやり直し”として始められた幻魔大戦が、4巻以降独自に展開していく萌芽はここにありました。
能動的に動いてきた狼男が、神の御使いとしての使命に目覚めて、手先として動く。表面上はこれまでと変わらない狼男だけど、悪魔からの精神攻撃で神を意識せざるを得なくなった犬神明が、天使との邂逅を経てコペルニクス的転回をする。どのような難敵も、自分で自分の信じる道を突き進んでいく物語を期待していた読者の期待は完全に裏切られることになる。
初読時、既に「幻魔大戦」に触れており免疫があったので、こういう展開も受け入れることができたのはよかったかも。
犬神明の行動原理としての考え方は理解出来るんですよね。ただ物語が「人狼天使第III部」以降書かれなかったこと返す返すも残念でした。テーマはその後のいろいろな作品に集約されているとはいえ、見たかったのは犬神明の活躍でした。

人狼天使(1) アダルト・ウルフガイ・シリーズ (NON NOVEL)
- 作者: 平井和正
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2016/06/24
- メディア: Kindle版
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