ハヤカワ文庫JA通巻1500番達成記念で復刊されました。1973年ハードカバー版。文庫初版は1975年。
以来、角川文庫(初刊は全1冊、その後上下巻に分冊)、祥伝社文庫、ハルキ文庫、集英社文庫と出版社を変えて出ており、その都度購入しています。中身は変わりませんが、表紙と解説(解説ないものもあり)が異なります。書庫にあるので、いずれもう少し詳細をまとめてみようと思います。
最初に読んだのは、高校時代ですので、今から40年くらい前になります。
遥か古代より続く、かつては天皇より上の位であったとも言われる異能集団<ヒ>一族。御鏡・依玉・伊吹という"三種の神器"を使うことで白銀の矢となって"テレポート"をする事が出来ます。
既にその血は薄まり、里人として暮らすものも多くなった室町末期、<ヒ>一族宗家が「勅忍(天皇の忍)宣下」を受けた事より物語は始まります。戦国時代、織田信長に天下を取らせようと暗躍する<ヒ>の長、随風。同じくヒでありながら、表に出て信長を補佐する明智光秀。<ヒ>の力を借りている事を知らず上洛を目指す信長の野望は、<ヒ>の助力を影で得ながらも<ヒ>の育成地比叡山延暦寺を焼き討ちし、結果的には世界の王となるべく天皇すら否定それに気が付いた光秀が本能寺で主君信長を襲う。
その後、関ヶ原の戦いと江戸の安定の為に天海と名を変えた随風、江戸になって義賊といわれる鼠小僧の正体、幕末の坂本竜馬、新撰組の<ヒ>の末裔同志による死闘、そして東京大空襲から始まる戦中戦後篇、そして現代と、400年に渡る<ヒ>一族の物語が紡がれていきます。
私たちに伝わる史実を縦糸とすれば、その隙間に<ヒ>一族という横糸を織り込み歴史という布を織りあげる半村良の手腕は見事。700ページ近くの大作ですが、物語に強く引き込まれます。
惜しむらくはこの作品が上梓された1970年代前半で物語が終わっていて、それ以降の物語がない事。著者の半村良も2002年に鬼籍に入り、続編は望むべくもありません。
戦国時代から関ケ原、江戸中期と幕末、そして東京大空襲から70年代前半までと、有名な事件を扱っているものの、もっと<ヒ>一族を絡めると面白そうな歴史的逸話はたくさんあります。
時代が進むにつれて、<ヒ>一族の血はどんどん薄くなっていきますが、それでもこの一族の能力を受け継いでいるものがいるとして、世界の裏側で何らかの形で関与しているとしたら…と考えると、かなり面白いです。
人の願いをかなえる産霊山の”芯の山”。
本当にそんなものがあるとは思えませんが、それがなくとも人は明日の平和と穏やかに過ごせることを願う。
初詣なんて、みんな誰も叶うとは思っていないけど、やっぱり家族の健康や日々の安寧を祈っちゃいますもんね。
もっとも、もっと卑近な「お金持ちになりたい」とか「結婚したい」とか「受験に成功したい」とかお願いする人も多いけどね。
さしずめ、今度の初詣には「昇段したい」とか「大会で入賞したい」とか「もっとサックスうまくなりたい」とか、祈っちゃうんだろうな。
今日の県大会もお恥ずかしい結果だったし。
そんな願いをする前に練習しなさいってのww
あ、「産霊山秘録」。ちょっと長い、しかも今回の復刊版は文庫なのに1400円もするけどお勧めです。bookoffとかで見かけたら読んでみてください。旧版なら100円コーナーで見つかるかもしれません。