碧野 圭著・講談社文庫
「書店ガール」の碧野 圭さんの最新作。
名古屋から東京に引越ししてきた矢口楓。高校入学前の春休みに近所の神社に足を向けた時、どこからか弦音が。境内に弓道場があった。大人に混じって練習をしていた同い年くらいの少年に、弓道教室に誘われる楓。
高校に入ったら硬式テニスをやろうと思っていたものの、心無い先輩のしごきのような練習に辟易して、入部即退部。そして、入学前にみた弓道入門に参加することになる。
意外かもしれませんが、同じ弓道でも、3年とか、4年とかで、多くの試合をこなし、的中を競う学生弓道と、仕事や家庭と両立しながら趣味として引く社会人弓道は根本的に異なります。
学生は、1日に100射練習なんて当たり前ですが、社会人は限られた時間、しかも毎日練習するのは難しいので、週に100本引ければいい方。圧倒的にかける本数が違います。
なので、学生弓道の経験者の的中率は高いですが、社会人から始めた人はなかなか中りません。
このお話の中にもありますが、社会人弓道は的中よりも所作(体配)や作法に重きを置く傾向にあります。といっても、試合では当然的中を求められます。その一方で、段位が上がれば的中しても昇段できないことも多くあります。審査の場合は、的中だけでなく、入場から退場までの一挙手一投足が弓道の所作に叶っているかを見られる為です。
全10回の弓道入門教室に入った楓の心境は、まさに弓道を始めたばかりの人の疑問で、かつての自分を見ているよう。
いきなり弓と矢を持って矢を射る稽古ができるかと思ったら、立ったり座ったり歩いたりの稽古。そのあとはゴム弓を使った弓を引く動作”射法八節”を繰り返し練習して、やっと的前に立てたかと思うと、的を5mくらい先に置き射る。なのに全然中らない。教室の最後くらいに正距離(28m)の的を射ますが、当然中らない。それどころか垜にすら届かない。
やってる人を見ると、簡単そうに見えますが、矢を飛ばすだけでも実は結構大変だったりします。ましてバンバン的中するなんて国体選手でもなければ難しい。私も今月は調子が良く羽分け(射た本数の半分)越えてますけど、年間で今は4割ちょっと。
でもね。
弓道って中たるも中らないも、昇段できるもできないも全部自分のせいで、相手が強かったとか、場所が悪かったとかいう言い訳は一切できません。練習をすればしただけうまくなるし、中るようにもなります。そこが、私が弓に引きつけられる理由だったりします。自虐的ですねw
学生弓道の話は、漫画の題材として扱われることが多いですが、社会人弓道の作品は珍しいです。
今回は入門から初めての審査受審まで。これからジュニアクラスのみんながどんな成長をするのかちょっと楽しみです。シリーズ化されるかな。
作者の碧野さんも入門教室から弓道をはじめたそうで、東京第3地連会員っぽい。小金井とかで会えるかなw
「弓道やってみたいけど、どんな感じなのかなー」と思った人。特に入門教室の描写はこのまんまなので、参考までに読んでから初心者教室の参加するのもよいかもです。